民泊ルールの方向性

新たな規制の枠組みの対象となる「民泊サービス」の範囲や規制の方向性を決めるために、2015年から政府の定期的な検討会が開かれています。

2016年4月22日の第9回『「民泊サービス」のあり方に関する検討会』で、民泊サービスの制度設計に関しての中期的な課題の中間整理のポイントが発表されました。

今回の検討会の内容は、今後の民泊サービスの規制緩和と新たな規制の方向性をみるための参考になると思いますので、わかりやすくご説明したいと思います。

現時点での「民泊サービス」

インターネットの仲介サイトの出現で、旅館業法に抵触する可能性のある民泊が2014年頃から急増し、その対策が急がれていました。

現時点では、法整備も含めてその対策の真っ最中と言えます。

この法整備の対策と並行して、既にいくつかの法令の改正や地方自治体の動きは始まっています。

まずは、現時点でどのような緩和や動きがあるのかをみてみましょう。

民泊条例の制定

民泊条例とは、国家戦略特別区域という国が定めた地域の中で、旅館業法の適用がない「特区民泊」の営業ができる自治体で制定することが出来る条例です。(詳しくは『民泊条例とは』をご参照下さい。)

※2018年に施行された住宅宿泊事業法により、国家戦略特別区域ではなくても民泊条例を自治体が制定できます。(生活環境の悪化を防止するため必要があるとき)

特区民泊は旅館業法の適用はありませんが、定期借家契約という契約形式になることや宿泊日数条件など、旅館業法よりも厳しいと思えるような条件もあります。

2016年4月28日現在で民泊条例(特区民泊)を施行しているのは、東京都大田区と大阪府のみです。(大阪市は民泊条例は可決済)

2023年11月時点では、東京都大田区と大阪府に続いて、千葉市、新潟市、加賀市、吉備中央町、大阪府、大阪市、八尾市、寝屋川市、北九州市などが区域指定されています。

旅館業法施行令の改正

ワンルームマンション民泊

2016年4月1日に旅館業法施行令が改定されました。

この改定では、それまで宿泊施設の広さを「33㎡以上」と規定されていたところを、10人未満の宿泊に限っては「1人当たり3.3㎡以上」とされました。

33㎡に満たないマンションの一室などでも民泊サービスを提供出来るようにするための緩和と言えます。

また、この改定に伴って、厚生労働省の通知で、10人未満の宿泊施設で緊急時の対応体制が整っている簡易宿所の場合「フロントの設置は不要」とされました。

これも実質フロントは設置出来ないマンションの一室で民泊サービスを提供出来るようにするための緩和と言えます。

但し、この緩和だけでは簡単にマンションで民泊を始める事は出来ません。

詳しくは『ワンルームマンションで民泊開業が難しい3つの理由』をご参照下さい。

何故、民泊の許可申請件数が増えないのか?

特区民泊のスタートや旅館業法施行令の改正があったにも関わらず、民泊の許可申請の数は増えていません。

無許可の違法民泊と呼ばれている業者のニュースも相変わらずあり、今までの規制緩和で無許可営業が減っているようにも思えません。

何故、民泊許可の申請が増えないのでしょうか?

特区民泊が増えない理由

特区民泊が増えない理由

2015年の年末にはテレビやネットで、「ついに特区民泊スタート!民泊解禁!」というニュースが流れて大いに騒がれました。

大田区の特区民泊の説明会では毎回数百人という定員以上の申し込みがありました。

某民泊仲介サイトのデータを調査しているサイトによりますと、2016年4月27日時点で東京都大田区でこの仲介サイトに登録されている物件数は252軒、大阪府全体のデータはないのですが、最も多いと言われている中央区のデータをみると2,950軒となっています。

しかし、実際大田区の民泊がスタートした日の申請件数は、なんと3件のみという結果でした。

大阪府も2016年4月1日から民泊条例を施行しましたが、この日の申請件数は1件です。

あれだけ騒がれた民泊条例(特区民泊)が施行されたにも関わらず、何故ほとんどの人が申請を出さないのでしょうか?

宿泊日数条件の厳しさ

特区民泊(特区民泊)には旅館業法の適用はありませんが、民泊条例で「旅館業法よりも厳しい条件」がついているのが原因だと思います。

細かい条件は「民泊条例とは」のページをご参照頂ければと思うのですが、一番大きな理由は「滞在期間7日以上」という条件だと思います。

観光客で7日以上滞在するというケースはほとんどありません。

この条件のお客さんしか宿泊出来ないのであれば、ほとんどの人が開業しても事業を続けるのは難しいと判断しているのだと思います。

※これまで「6泊7日以上」であった特区民泊の日数要件が「2泊3日以上」に緩和されることが、2016年10月の閣議で正式に決定され、10月31日から施行されました。

民泊(簡易宿所)許可申請が増えない理由

今回、宿泊施設の広さとフロントの設置義務がなくなったことは、大きな緩和ではあるのですが、それ以外の規制がまだまだあるので、そう簡単に民泊の許可はとれないのです。

特に建築基準法、都市計画法、消防法に関する部分の緩和はありませんので、今回の「広さ」と「フロント設置義務」の条件緩和だけでは、まだまだ旅館業許可の壁は高いと言えるのかもしれません。(詳しくは『民泊の許可申請方法を全解説します!』をご参照下さい。)

2023年11月時点、トイレの数や暖房設備について規制緩和がされています。

民泊サービスの言葉の定義

民泊サービスの言葉の定義

これまで見ましたように、民泊条例や旅館業法施行令の改正だけでは、合法的な民泊サービスを広げる機能が十分ではないように思えます。

結果として、「申請して合法に営業しようと思ったけど、条件が厳し過ぎるから、申請せずにこのままやってた方がいいや」ということになり、規制緩和によって、無許可営業の民泊を減らすという効果も薄くなっているのではないでしょうか。

そこで、さらに踏み込んだ緩和と新たな規制が検討されています。

その新しい緩和と規制の検討内容を理解するためには、民泊サービス独自の言葉(単語)を理解する必要があります。

まずは、それらの民泊サービスに関する言葉(単語)をご説明したいと思います。

家主居住型

ホームステイ

「家主居住型」は「ホームステイ型」とも呼ばれています。

自分が住んでいる家(又はマンションの一室)の一部を民泊として貸し出すタイプのものです。

ただ、現実的にはマンションの一室で見ず知らず家主と一緒に宿泊客が泊まるというケースは少ないと思います。

一般的には「家主居住型(ホームステイ型)」は家主が住んでいる一軒家の民泊を指す事が多いと言えます。

「家主居住型」は日本の生活を体験したいというような、外国人の多様なニーズに応える民泊として期待されます。

家主不在型

家主不在型民泊

「家主不在型」とは、誰も住んでいない部屋を民泊として貸し出すようなケースです。

例えば、外国人が投資用に購入したマンションの一室を民泊として提供したり、空き家になって誰も住んでいない家を民泊として提供するようなケースがあります。

「家主不在型」は一軒家とマンションのような共同住宅の一室の両方のパターンが考えられます。

「家主不在型」は相続などで増える空き家問題の解消や、大都市圏での観光客急増による宿泊施設不足の解消の対策として期待されます。

民泊サービス提供者

民泊ビジネスのオーナー

民泊サービス提供者とは、厳密な定義はされていなのですが、民泊施設で民泊ビジネスを行う者と考えられます。

例えば、貸した家をさらに別の人に貸し出す「転貸」を承諾したオーナーがいたとします。

この家を借りて民泊サービスを始めた(転貸した)人が「民泊サービス提供者」となります。

ですから、「転貸を承認したオーナー」は民泊サービス提供者とは言えません。

現在問題になっているのは、民泊仲介サイトが匿名で登録出来るため、行政が民泊サービス提供者の把握が難しいという点です。

今後は登録制などによって、この「匿名性を排除」する方向に向かうとされてます。

管理者

管理者

管理者とは、家主不在型の民泊で、民泊サービスの管理運営を委託された者です。

例えば、投資用に部屋を購入して、代金回収や部屋の掃除、クレーム対応など民泊サービスは全部業者に任せると言うような場合、管理業務を委託された業者が「管理者」となります。

今回の中間報告でも、「家主不在の場合は、管理者に委託するなどにより、委託等を受けた管理者による適正な管理を確保」することが課題としてあげられています。

仲介事業者

仲介事業者とは、インターネットを通じて民泊を貸したい人と借りたい人をマッチングする業者などを指します。

つまり民泊予約サイトの運営業者などが、「仲介事業者」ということになります。

今回の中間報告では、「仲介事業者にも一定の責務を課すことにより、民泊サービスの適正な実施を確保」するという案があげられています。

管理業者・仲介業者への規制

今回の中間報告では「現行制度の枠組みにとらわれず、仲介事業者や管理事業者への規制を含めた制度体系を構築すべき」とされています。

現行の旅館業法が作られた時には、インターネットもありませんでしたし、外国人観光客が年間2000万人近く訪れて宿泊施設が足りなくなったり、空き家が800万戸以上増えて問題になるようなこともありませんでした。

こういった新たな環境の中で、それまでは登場してこなかった「管理者」や「(インターネットでの民泊)仲介業者」といった人達が旅館業に深く関わる存在になってきましたので、これらの人達に対しても、なんらかの役割を義務付ける必要が出てきました。

そこで、今回の検討会では、具体的には以下のような方向性が示されました。

管理者規制の方向性

マンションのような共同住宅で、特に家主がいない部屋を貸し出す(家主自在型)場合、家主のいるホームステイ型に比べて、騒音、ゴミ出し等による近隣トラブルのリスクや、施設が悪用されるリスクなどが高まる可能性があります。

また、近隣住民からの苦情の申入れ先も不明確になるケースも増えると予想され、近隣住民とのトラブルになる可能性もあります。

そこで、家主不在型の民泊サービスについては、登録を受けた管理者に、以下のような業務を担当させるというルールを設ける事で適正な管理や安全・衛生を担保するという方向性が示されました。

  • 利用者名簿の作成・備付け。
  • 利用者に対する注意事項の説明。
  • 苦情の受付。
  • 当該住戸についての法令・契約違反の不存在の確認。など

仲介事業者規制の方向性

民泊サービス(ホームステイ型・家主不在型いずれも含む)の仲介事業者についても、登録を受けることが必要だという見解が出されました。

その上で以下のような規制を課すことを検討するとしています。

  • 消費者の取引の安全を図る観点による取引条件の説明義務。
  • 民泊サービスであることをサイト上に表示する義務。
  • 行政への情報提供義務。など

さらに、「一定の要件」に違反したり、家主がいないにもかかわらずホームステイ型と偽装するような不適切な民泊サービスについては、広告削除命令を可能とすることも検討されます。

また、上記のような「一定の要件」に違反していたり、ホームステイ型と偽装しているような不適切なサービスであることを、仲介業者が知りながら広告掲載した場合、業務停止命令等の処分を可能とすることも検討されます。

外国法人に対する取締りの実効性確保

外国法人に対する取締りの実効性確保のため、法令違反行為を行った者の名称や違反行為の内容等を公表できるようにすることも検討するとされました。

※ 金融庁は、金融商品取引法第192条の2に基づき、登録を得ずに金融商品取引業を実施した外国法人の名称を公表し、注意喚起を実施。

「一定の要件」とは

先程の仲介事業者規制の方向性のお話で、「一定の要件に違反した民泊サービス」とありましたが、この「一定の要件」とはどういった要件なのでしょうか。

実は、この「一定の要件」をこれから決めるのですが、これこそが「民泊サービスの制度設計」の肝となる部分なのです。

今回の中間報告では「新たな規制の枠組みの対象となる民泊サービスの範囲については、既存の旅館・ホテルと異なる取扱いとすることについて、合理性のある『一定の要件』を設定」するとされています。

つまり「一定の要件」こそが、「民泊の要件」となるのです。

一定の要件はこれから細かい項目が出てくると思うのですが、今回の討論で出てきた「一定の要件の案」をみてみましょう。

「制限」とは

「一定の要件」は、一見すると、さまざまな「制限」の設定のように見えます。

しかし、これらの条件をクリアすれば、今までは旅館業法で規制していたさまざまな厳しい条件をクリアいしなくても営業許可が取れるようにする「緩和のための条件」とも言えます。

つまり、「規制緩和のための最低限必要な規制(制限)」を作る作業をしている段階と見ることも出来ると思います。

最低限の規制設定をして既存の規制を緩和した後には「規制緩和するかわりに、許可を取っていない業者は厳しく取り締まります」という流れになるのだと思います。

それでは、規制緩和の前に、どのような制限の案が出ているのかを見てみましょう。

年間営業日数の制限

「年間営業日数を30日以内にするという制限を設けるべき」という案です。

ただ、この制限に関しては「住宅ストックの有効活用を国策と捉え、提供日数に制限を求めるべきではない」という反対意見も出ています。

海外の例では、イギリスでは年間90泊以内、オランダのアムステルダムでは年間60泊以内という制限を設けています。

※2018年に施行された住宅宿泊事業法では、年間提供日数の上限は180日(泊)になりました。

宿泊人数の制限

「1日当たりの宿泊人数を4人以内にするという制限を設けるべき」という案です。

海外の例では、オランダのアムステルダムでは同時宿泊者な4人以内、ドイツのベルリンでは同時宿泊者8人以内という制限が設けられています。

※2018年に施行された住宅宿泊事業法では、宿泊人数の制限はありません。

マンションの一棟貸しなどに関する制限

マンションの一棟貸しやその大半を民泊として使用するような形態の民泊は、既存のホテル・旅館営業と何ら変わることはないため排除するべきという案です。

※2018年に施行された住宅宿泊事業法では、「マンションの一棟貸し民泊」の規制はありません。

その他の制限

その他に以下のような制限を設けるべきという案が出ています。

  • 複数物件を取り扱うことは認めるべきではない。
  • 面積規模などが一定以下のものに対象を限定すべき。
  • マンションについては、管理組合や大家の承認を得ていることを要件とすべき。 など

海外のその他の制限

海外では以下のような制限を設けている地域があることも紹介されました。

  • 一度に4部屋以上の貸出禁止(アメリカ:ナッシュビル)
  • 住宅の所有者等が年間4ヶ月以上居住し、かつ、住居空間の50パーセント未満の場合に有償で貸し出し可能(ハンブルク)
  • 住居が貸主の居住の本拠(年間8ヶ月以上居住)である場合は届出等不要(パリ)

「一定の要件」を越えた営業行為

「一定の要件」を超えた営業行為(例えば、日数制限、宿泊人数制限、延床面積制限等を課す場合に、これらの制限を超えるもの)は、新たな規制の枠組みの対象外とするべき、という案も提案されています。

つまり、その案では、一定の要件を満たさない場合は、現行の「旅館業法」の許可対象となり、旅館業法の許可要件を満たさなければいけないということになります。

また、宿泊拒否制限規定の見直しなど既存の旅館・ホテルも含めた「旅館業法」の規制の見直しも同時に提案されています。

まとめ

まとめ

いかがでしたでしょうか。

いろいろな議論が進む中で、かなり具体的な内容になってきたという印象をもたれた方も多いのではないかと思います。

今まではルールがなかった責任の所在も、「サービス提供者」「管理者」「仲介業者」とそれぞれの責任が明確になりつつあると思います。

こういったルール作りと並行して、違法民泊に対する行政の取り締まりも厳しくなっています。

今回みてきた規制緩和でも「全然緩和が足りない!」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、安全・衛生・近隣住民の環境などを守ることが第一です。

結果的には、最低限必要な規制はきちんと設定して、そのルールを守って民泊ビジネスをおこなうことが、あなたご自身も含めたみんなにとって、最も良い方向に向かうのだと思います。