旅行業法とは

2016年2月に行われた『第6回「民泊サービス」のあり方に関する検討会』で非常に大きな流れがありました。

早急に取り組むべき課題として、民泊の仲介業者に旅行業登録が必要とするべきという意見がありました。

旅行業登録とは、旅行業法に基づいた旅行業をおこなう事業者として登録するものです。

今回はこの旅行業法とはどういった法律で、何故仲介業者に旅行業登録を義務付ける流れになっているのかを考えていきたいと思います。

※2018年6月に施行された住宅宿泊事業法では、住宅宿泊仲介業者は観光庁長官への登録が必要です。

旅行業法とは

私、行政書士事務所と別に株式会社を経営しているのですが、その会社は2009年に旅行会社として設立しました。

ですから、私自身、総合旅行業務取扱管理者であり、旅行業運営の経験も持っています。

総合旅行業務取扱管理者の試験のために、旅行業法と標準旅行業約款はかなり勉強しましたが、ここにきてまた旅行業法に関係するとは思いませんでした。

旅行業法とは、旅行業者が、サービスについての最終的な責任を持たない「仲介者」の立場にあることに着目して、旅行業者による「仲介取引行為」に対して規制を設けた法律です。

それでは、旅行業法でいう旅行業とはどのように定義され、旅行業法にはどういった目的や規制があるのか等をご説明していきたいと思います。

旅行業とは

旅行業法では、旅行業とは以下のように定義付けられています。

旅行業の定義(法第2条第1項)

報酬を得て、旅行者と運送・宿泊サービス提供機関の間に入り、旅行者が「運送又は宿泊のサービス」の提供を受けられるよう、複数のサービスを組み合わせた旅行商品の企画や個々のサービスの手配をする行為。

旅行業とは

これはどうゆうことかと言いますと、「旅行者がバスや電車、飛行機で移動したり、宿泊するための旅館・ホテルの予約をする場合、旅行者と運送業者又は宿泊施設業者(旅館業)の仲介をする仕事が「旅行業」に該当するということです。

こういった仲介をする場合は、旅行業登録をしなければいけません。

ちなみにインターネットでホテル予約を仲介するようなサイトは旅行業登録が必要になります。(詳しくは『インターネットを利用した旅行取引に関するガイドライン』をご参照下さい)

旅館業法の簡易宿所で登録された場合、あきらかに「旅館業」となりますので、その旅館業となった民泊業者と旅行者の仲介をするサービスは「旅行業」に該当するという解釈です。

旅行業法の目的

旅行業法では第一条に以下のような目的が記されています。

(目的)
第一条  この法律は、旅行業等を営む者について登録制度を実施し、あわせて旅行業等を営む者の業務の適正な運営を確保するとともに、その組織する団体の適正な活動を促進することにより、旅行業務に関する取引の公正の維持、旅行の安全の確保及び旅行者の利便の増進を図ることを目的とする。

ちょっと分かり難いのですが、「旅行業務に関する取引の公正の維持」「旅行の安全の確保」「旅行者の利便の増進」の三つの目的のために、「旅行業者について登録制度」を義務つけるというような意味になります。

旅行業登録をするためには、営業保証金の供託義務(法第7条)、旅行業務取扱管理者の選任義務(法第11条の2)、約款の策定義務及び認可(法第12条の2)、取引条件説明義務・契約書面交付義務など、さまざまな要件がありますので、資金面でも人的な面でも準備が必要です。

仲介業者に旅行業登録を義務付ける意義

では、インターネットで民泊を仲介しているサイト運営者の旅行業登録が必要となるのは、何故なのでしょうか。

実は、仲介者が負う責任に大きく関係しています。

仲介取引行為の責任

そもそも旅行業法は、旅行業者が、サービスについての最終的な責任を持たない「仲介者」の立場にあることに着目して、旅行業者による「仲介取引行為」に対して規制を設けた法律です。

「仲介取引行為」に対しての規制ですから、「仲介対象のサービス(宿泊・運送サービス)」が適切に提供されることを旅行業者が管理・監督する義務は課されていません。

また、仲介対象のサービスの提供主体等を行政に報告する義務もありません。

さらに、契約も旅行者と宿泊施設の直接契約になりますので、民事上の契約責任も負担しません。

旅行業者の禁止行為

旅館業法違反

それでは、旅行業登録をしても「サイトに掲載する場合は法令を遵守して下さい」とサイト運営者は法的責任はとらず、掲載者側の判断に任せ、違法であっても掲載者側の責任というスタンスでいいのでしょうか?

旅行業登録をすることになれば、「紹介先が違法かどうかは私の責任ではありません」というような言い訳は通用しない可能性があります。

何故かと言いますと、旅行業法第13条という条文がポイントになります。

第十三条

3 旅行業者等又はその代理人、使用人その他の従業者は、その取り扱う旅行業務に関連して次に掲げる行為を行ってはならない。

二 旅行者に対し、旅行地において施行されている法令に違反するサービスの提供を受けることをあっせんし、又はその提供を受けることに関し便宜を供与すること。

三 前二号のあっせん又は便宜の供与を行う旨の広告をし、又はこれに類する広告をすること。

このように旅行業法第十三条では、登録を受けた旅行業者が、「他法令に違反するサービスをあっせんする行為」や「他法令に違反するサービスをあっせんする旨の広告」を禁止しています。

例えば、旅館業法に基づく営業許可を受けていない宿泊施設は明らかにた法令に違反するサービスです。

他法令に違反するかの判断

違法か適法かの判断

旅行業法担当行政庁では、他法令に違反するかどうかについての判断権がありませんので、当該サービスが他法令に違反しているかどうかについては、サービス提供事業者に対する監督・取締権限を有する担当行政庁が認定する必要があります。

この点は今後どのように運営するかのポイントになると思います。

旅行業法対象の課題

旅館業法では民泊の位置付けをどうするかで議論されていますが、実は旅行業法も新しい旅行業の形態の出現で対応を迫られています。

インターネットの進展に伴い、新たな旅行取引の形態として「オンライン取引」の規模が年々拡大しています。

オンライン取引には、国内のオンライン旅行取引事業者による旅行予約サイトの他に、海外の業者による旅行予約サイト、他社の旅行商品を比較・紹介するだけのメタサーチ、場貸しサイト等の様々なサイトで新しい形態のサービスがあらわれています。

これらの新しいサービスが旅行業法の適用対象になるのか、ならないのかが明確になっていない部分もあります。

ですから、利用するサイトによって旅行業法に基づく登録の有無が異なったり、契約の形態や条件が異なることがあり、契約をめぐるトラブルの発生が懸念されています。

そこで2015年に観光庁は『「オンライン旅行取引の表示等に関するガイドライン(OTAガイドライン)』を策定しました。

(OTAとはOnline Travel Agentの略で、店舗を持って営業活動を行う従来型の旅行会社に対し、インターネット上だけで取引を行う旅行会社のことを指します。)

民泊仲介サイトには海外の会社もありますので、海外の会社を旅行業法登録対象にするのか、OTAガイドラインに沿った運営を促すのみにするのかが注目されるところです。

国内の業者には厳しくして、海外であれば規制が緩いということになれば、民泊仲介サイトは全部海外の会社で運営されるということになる可能性もあります。

グローバル化とインターネットビジネスの急速な普及の中で、海外の会社に対してどのように法令を適用するのかが今後の課題になると思います。

まとめ

まとめ

いかがでしたでしょうか。

仲介業者が旅行業登録が必要になると決まったわけではありませんが、そういった動きになっているというのが今回の検討会での大きな注目点だと言えます。

今までに無いビジネスを現行の枠の中の法令で適用しようとしても、なかなか難しいところもあるかもしれませんが、今回のように仲介業者に旅行業登録を義務付けるというのは、責任の所在を明確にするという意味でも意義のある動きでしょう。

ただ、最後にもお話しましたように、海外の会社に対してどのように法令を適用するのかが大きなポイントになると思います。

来月には大阪府の民泊条例も施行され、今年はますます民泊に対する大きな変化があると思いますので、引き続き、民泊に関する情報は随時ご紹介し、分かりやすくご説明できればと思います。

※2018年6月に施行された住宅宿泊事業法では、住宅宿泊仲介業者は観光庁長官への登録が必要です。