民泊を始める際には消防設備を設置しなければなりません。
このページでは、一般的に必要と想定される消防設備に関してご説明したいと思います。
詳細は各自治体の消防庁で規定されているので確認頂く必要がありますので、申請の場合は必ず管轄の消防局へ直接お問い合わせ下さい。
2017年に交付された住宅宿泊事業法に伴い「住宅宿泊事業法に基づく届出住宅等に係る消防法令上の取扱いについて(通知) 」が消防庁予防課長より発出されました。
この通知をもとに民泊における消防設備は定められています。
消防法上の民泊の定義
消防法では、火災が発生した場合に大きな被害が予測される建物や場所を「防火対象物」と指定しています。
防火対象物の中でも消防法第17条2-5に定められている「多数の者が出入りするものとして政令で定めるもの」は特に厳しい基準での防火設備が必要ということで「特定防火対象物」と指定されています。
「旅館・ホテル、宿泊所その他これらに類するもの」は特定防火対象物と指定されていますので、民泊施設は特定防火対象物となります。
戸建又は共同住宅の全部を民泊として使用する場合は5項(イ)という区分になります。
ただし、家主居住型で民泊として使用する床面積が50㎡以下の場合は一般住宅と同じ扱いになります。
共同住宅の一部を民泊として使用する場合は16項(イ)という区分になります。
共同住宅は16項(ロ)という区分になり、非特定防火対象物になります。
つまり共同住宅の一部を民泊として使用する場合、非特定防火対象物から防火対象物に変わるため必要となる消防設備も変わります。
こちらも、一戸建て住宅と同じように、家主居住型で民泊として使用する床面積が50㎡以下の場合は一般住宅と同じ扱いになります。
それでは民泊で必要な消防設備を詳しく見てみましょう。
民泊で必要な消防設備
民泊で必要な消防設備は以下のように戸建と共同住宅、またその規模で大きく変わってきます。
必ず必要になるものは「自動火災報知機」と「誘導灯」です。
消火器は床面積が150㎡未満(地階や無窓階、3階以上の階は50㎡未満)の場合は設置義務はありませんが、火災がおこった場合を想定して必ず設置されることをお勧めします。
2階建ての戸建などの場合「特定小規模施設」といって簡易的な消防設備の使用が認められるケースがあります。
ラスモルタルという、モルタルの付きをよくするためにメタルラスという金属製の下地にモルタルを塗った構造の建物は注意が必要です。
モルタルの中に金属が入っているため、その金属が濡れて通電すると火災が発生する可能性があるため、漏電火災報知機の設置基準が厳しくなっています。
ラスモルタルの建物の場合、150㎡以上又は契約電流が50A以上の場合は漏電警報機が必要になります。
これは特定小規模施設であっても設置が必要です。
自動火災報知機とは
自動火災報知設備とは、受信機・発信機・表示灯・地区音響装置・感知器から構成された火災報知機です。
火災が発生した場合、火災によって生じた熱・煙・炎を、熱感知器・煙感知器・炎感知器のそれぞれが感知し、感知器から受信機へ火災信号が送られます。
信号を受けた受信機は警報を発して、ベルなどを鳴らし、建物内にいる人へ火災の発生を知らせる仕組になっています。
但し、特定小規模施設に該当する民泊施設の場合は特定小規模施設用自動火災報知設備(特小自火報)という無線式の感知器が使用できますので、感知器と受信機をつなぐ配線工事などが不要になり、消防設備設置費が安くなる場合があります。
設置工事の費用は一概には言えませんが、特定小規模施設の一戸建てで自動火災報知機を設置する場合、工事費は30万円から50万円くらいを目安にされている方が多いように思います。
自動火災報知機には煙探知機と熱探知機がありますが、有線式の場合、煙探知機の方が熱探知機よりも価格が高くなります。
無窓階には煙探知機を設置しなければいけませんので、有線式で無窓階に設置する自動火災報知機は一般的に設備費用が高くなります。
無線式の場合、自動火災報知機の価格自体は高いのですが、無線の場合は電気工事や火災受信機が不要になる点で費用を抑えることが出来ます。
火災受信機
5回線までであれば安価なP型2級、6回線以上の場合はP型1級の火災受信機を設置します。
火災受信機はP2型で十万円台から数十万円、P1型の場合は数十万円から百万円以上のものもあります。
無線式の特定小規模施設用自動火災報知設備の場合は、この受信機の設置が不要ですので費用は安くなります。
総合盤(ベル・表示灯・発信機)
総合盤は、火災発生を知らせるための発信機、表示灯、ベルなどを収納した箱です。
発信機は火災を発見した時にボタンを押して報知するためのものですので、人の手が届きやすい場所に設置する必要があります。
無線式の特定小規模施設用自動火災報知設備の場合は、この総合盤の設置も不要になりますので費用は安くなります。
誘導灯
誘導灯とは、非常時に安全に屋外に避難できるようにするために、直接屋外に避難できる扉や避難口に通じる通路に設置する標識です。
誘導灯は消防法、施行令、施行規則などで大きさや設置する間隔などが細かく決められています。
例えばA級(40cm角)、B級(20cm角)、C級(10cm角)といった具合に3種類で大きさが区別されています。
法令に適合した設置をしなければ民泊の営業をおこなうことができませんので、どこにどのような誘導灯を設置するのかは非常に重要になります。
避難口誘導灯
避難口誘導灯とは、避難口を指し示す誘導灯です。
直接外部に通じる扉や階段に通じる扉などの避難口の上部に設置します。
避難口誘導灯には、避難口を示すピクトグラム(人のマーク)だけが表示されているものと、避難方向の矢印と避難口を示すビクトグラムが併記されているものの二種類のタイプがあります。
方向表示とピクトグラムが併記されている誘導灯は、ピクトグラムだけの避難口誘導灯よりも有効距離が短く設定されているので、短い間隔で設置しなければいけません。
- A級 ピクトグラムのみ 60m
- A級 ピクトグラム+矢印 40m
- B級 ピクトグラムのみ 30m
- B級 ピクトグラム+矢印 20m
- C級 ピクトグラムのみ 15m
※C級の誘導灯は小さいので矢印併記はありません。
通路誘導灯
通路誘導灯とは、廊下や階段などの通路に設置する誘導灯です。
通路誘導灯は、その名の通り、避難する方向を示すものです。
避難口誘導灯が視認できない曲がり角などに設置して避難口がどこにあるのかを表示します。
通路誘導灯の大きさと有効距離は以下のようになっています。
- A級:20m
- B級:15m
- C級:10m
誘導灯の免除基準
自動火災報知機で特定小規模施設の特例があったように、誘導灯にも設置が免除される特例があり、免除には以下のような条件があります。
一戸建て住宅の場合(1階、2階)
- 居室の各部分から主要な避難口を容易に見通し、かつ、識別できること。
- 窓やドアから3m以内を通らないで、安全な場所に避難できること。
- 避難経路図の提示していること
- 非常用照明装置を設置していること。
共同住宅の場合
- 民泊を行う住戸の床面積が100以下。
- 非常用照明装置または携帯用照明器具を設置していること。
- 直接外部またはバルコニーなどに避難できること。あるいは2つ以上の部屋を通らずに外部に避難でき、かつ1つの部屋を通る場合でも携帯用照明器具を設置すること。
避難口誘導灯の免除
- 避難階:歩行距離20m
- 避難階以外:歩行距離10m
通路誘導灯の免除
- 避難階:歩行距離40m
- 避難階以外:歩行距離30m
住宅の一部を民泊として活用する場合
自分が住んでいる家(一軒家)の一部を民泊として利用する場合、その広さで必要となる設備が変わってきます。
民泊部分が50㎡以下
自分も住んでいる家の一部を民泊として貸し出すような場合、50㎡以下であれば、建物全体が一般住宅と取り扱われるので、民泊としての消防用設備等の設置は不要です。
但し、全ての住宅に設置義務がある住宅用火災警報器の設置はもちろん必要になりますのでご注意ください。
民泊部分が50㎡超
民泊部分が50㎡を超している場合、建物全体が「宿泊施設」となります。
この場合、民泊用の消防用設備等の設置が必要になります。
基本的に下記のような設備が必要になりますが、詳細は管轄の消防局へお問い合わせ下さい。
【主に必要となる消火設備】
- 消火器(民泊部分の床面積が150㎡以上の場合)
- 自動火災報知設備(建物の延べ面積300㎡未満の場合は簡易な自動火災報知設備の設置が可能)
- 誘導等(全て)
- 宿泊施設として取り扱われる部分のカーテン、じゅうたん等は防炎物品とする
自動火災報知設備に関して
建物全体の延べ面積が300㎡以上の場合は、建物全体に自動火災報知設備の設置が必要となりますのでご注意ください。
共同住宅の一部を民泊として活用する場合
共同住宅、つまりマンションの一室や一部を民泊で使用する場合、延べ面積の大きさや民泊で使用する部屋の割合によって設置義務の要件が変わってきます。
延べ面積が500㎡以上の場合
自動火災報知設備に関しては、既に建築されている延べ面積が500㎡以上の共同住宅(マンション等)には設置義務があるため、新たな規制はかかりません。
消火器についても、共同住宅(マンション等)と旅館・ホテル等の設置基準が同一であるため、新たな規制はかかりません。
誘導灯については、新たに廊下、階段等の共有部分に設置すれば足りるとされています。
さらに、避難口までの歩行距離や視認性等の一定の条件を満たせば設置は不要となる場合もあります。
延べ面積が300㎡以上で民泊部分が1割を超える場合
延べ面積が500㎡未満の場合、延べ面積が300㎡以上で、民泊部分が1割を超えると、建物全体に自動火災報知設備の設置が必要になります。
但し、無線方式のものを用いることも可能ですので、簡便な追加工事により対応することができます。
消火器については、共同住宅(マンション等)と旅館・ホテル等の設置基準が同一であるため、新たな規制はかかりません。
誘導灯についても先程と同様に、新たに廊下、階段等の共有部分に設置すれば足りるとされています。
さらに、避難口までの歩行距離や視認性等の一定の条件を満たせば設置は不要となる場合もあります。
延べ面積が300㎡未満で民泊部分が1割以下の場合
延べ面積が300㎡未満で民泊部分が1割以下の場合、民泊部分のみ自動火災報知設備の設置が必要になります。
消火器と誘導等に関しては、共同住宅で民泊をする他の条件と同じです。
この場合特定小規模施設用自動火災報知設備の設置が可能です。
長屋の一部を民泊として活用する場合
長屋は「連棟」や「テラスハウス」などと呼ばれる場合もあります。
長屋は一つの建物を壁で区切って複数の住戸となっている構造の建物で、各住戸と住戸の間の界壁以外共有する部分がなく、各住戸に外部から直接出入り出来るものです。
共同住宅はエントランスやエレベーター、廊下などの共有部分がありますが、長屋は外部から直接各住戸に入る構造になっている建物です。
長屋に関しては、各自治体で消防設備の設置基準(特に特例)が異なりますので、必ず管轄の消防署窓口にご相談下さい。
一例として京都市の長屋に関する消防設備設置の基準と特例をご紹介します。(京都市「長屋の一部に宿泊施設等が入居する場合」)
このように建物全体の延べ床面積が300㎡以上となる場合は、民泊で使用する部分以外の全ての住戸に自動火災報知機の設置が必要になります。
他人の家にも自動火災報知機を設置させてもらわなければいけませんので、これはかなり難しいと思います。
長屋で民泊をおこなう場合の特例基準
そこで、京都市には以下のような特例があります。
但し、これは京都市の特例ですので他の自治体も同じ特例があるということではありませんのでご注意下さい。
京都市では壁を準耐火構造又は同程度とすることで、民泊以外の住宅部分には自動火災報知機の設置義務を免除する特例を設けています。
この壁を準耐火構造にするにあたっては、事前に消防署との協議が必要です。
相談せずに工事をして、「この施工方法では認められません」と言われた場合は再度工事が必要になりますので、必ず事前に消防署に相談に行くようにしましょう。
消防法令適合通知書
消防署と打ち合わせをして必要な消防設備を設置した後は、消防法令適合通知書という書類を交付してもらいます。
民泊の営業許可申請には、消防法令適合通知書が必要になります。
まずは、消防法令適合通知書交付申請書という書類を消防署に提出します。
その時に消防署の担当者の方が物件の立会い検査に来られる日程を決めます。
この立会い時には実際に消防設備が作動するか、防炎物品を使用しているか、計画書通りに誘導灯などの設備が設置されているか、避難経路図が貼られているか等を確認されます。
特に問題がなければ1週間から2週間ほどで消防法令適合通知書が交付されます。
消防設備の壁
旅館業法で自動火災報知機の設置が条件になっているように、戦略特区の特区民泊でも自動火災報知機の設置が条件になっています。
先ほどご説明しました特定小規模施設などは数十万円で済むケースがほとんどですが、有線の自動火災報知機になりますと数十万円から数百万円かかる場合もあります。
マンションのような共同住宅の場合、民泊をおこなうことで建物全体の消防設備の基準が高くなり、建物全体に誘導灯や自動火災報知機、スプリンクラーをつけなければいけないようなケースも想定されます。
そうなると規模によっては数百万円ではおさまらないケースも出てきます。
消防設備は建物の用途や規模によって細かく規定されていますので、必ず消防署の担当窓口に確認しておく必要があります。
規定の設備を設置しなければ消防法令適合通知書という証明書が交付されないため、民泊を始めることができません。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
民泊を始めるにあたっては、自分の貸しだす物件がどの条件に当てはまるのかを事前にきちんと調査しておかないと、後で予定外の出費が出る事があります。
消防関連の設備の設置もその一つです。
消防設備に関しては、各自治体の条例などで別途細かく指定されている場合もございますので、実際に民泊を始める際には、必ず管轄の行政窓口にお問い合わせ下さい。