住宅宿泊事業法(民泊新法)の消防設備

2018年6月15日に施行された住宅宿泊事業法(民泊新法)で営業をする民泊施設は「住宅」という位置付けです。

しかし、消防設備に関しては注意が必要です。

住宅宿泊事業として使用する民泊施設の消防設備に関してわかりやすくご説明したいと思います。

旅館業として必要な消防設備

民泊に必要な消防設備

ホテルや旅館業、特区民泊などの宿泊施設は「特定防火対象物」といって、通常の住宅や防火対象物よりも厳しい条件の消防設備の設置が義務つけられています。

ホテルや旅館の建物には広さや収容人数によってさまざまな設備や管理者の設置が義務つけられています。(旅館 ・ ホテル ・ 宿泊所その他これらに類するものに必要な設備

住宅宿泊事業として必要な消防設備

それでは、旅館・ホテルではなく、特区民泊でもない、住宅宿泊事業(民泊新法)の民泊はどのような消防設備が必要とされるのでしょうか。

住宅宿泊事業で民泊として使用する施設の消防設備を理解するには、2017年10月27日に消防庁予防課長から各都道府県消防防災主管部長宛に出された「住宅宿泊事業法に基づく届出住宅等に係る消防法令上の取扱いについて(通知)」の内容が非常に重要になります。

住宅宿泊事業法に基づく届出住宅等に係る消防法令上の取扱いについて(通知)

それでは、この通知にはどのような内容が書かれているのかを、わかりやすくご説明したいと思います。

住宅宿泊事業(民泊新法)の民泊施設の消防法令上の取扱い

届出住宅

住宅宿泊事業として使用する民泊施設は「届出住宅」と言います。

単なる「住宅」ではありません。

つまり消防法令上では「住宅」と「届出住宅」を明確に分けて定義しているということです。

この「届出住宅」を消防法令では以下のように取り扱うとされています。

届出住宅の消防法令上の取扱いについて

届出住宅については、消防法施行令(昭和36年政令第37号。以下「令」という。)別表第1(5)項イに掲げる防火対象物(旅館・ホテル、宿泊所その他これらに類するもの)又はその部分として取り扱うものとする。

ただし、人を宿泊させる間、住宅宿泊事業者(法第2条第4項に規定する住宅宿泊事業者をいう。以下同じ。)が不在とならない旨(規則第4条第3項第10号に規定する旨をいう。)の届出が行われた届出住宅については、宿泊室(届出住宅のうち規則第4条第4項第1号ト(4)に規定する宿泊者の就寝の用に供する室をいう。)の床面積の合計が50平方メートル以下となるときは、当該届出住宅は、住宅(消防法(昭和23年法律第186号)第9条の2に規定する住宅の用途に供される防火対象物(令別表第1(5)項ロに掲げる防火対象物(寄宿舎、下宿又は共同住宅)の部分を含む。)をいう。)として取り扱うものとする。

なお、届出住宅が一部に存する共同住宅等については、当該届出住宅ごとに用途を判定した上で、棟ごとにその用途を「令別表第1に掲げる防火対象物の取り扱いについて」(昭和50年4月15日付消防予第41号・消防安第41号)により判定すること。

読んだだけですと、かなり判りにくいですね。

具体的な内容を説明する前に、ここに書かれている語句を理解する必要がありますので、簡単にご説明したいと思います。

令別表第1とは

「令」というのは消防法施行令という法令のことで、この消防法施行令に「別表第1」という表が添えられています。(令別表第1

令別表第1では、使われる用途によって防火対象物を区分しています。

この区分によって、必要となる消防設備などが異なってきます。

また、面積・収容人員などの違いによっても必要となる消防設備・各種届出義務・防火管理者の有無などが変わります。

防火対象物は(1)項から(20)項の大項目と、さらにそれらの項目を分けて区分されています。

令別表第1(5)項イに掲げる防火対象物とは

消防施行令別表第1とは

令別表第1(5)項イに掲げる防火対象物とは「旅館・ホテル、宿泊所その他これらに類するもの」です。

簡易宿所や特区民泊はこの(5)項イに該当します。(一つの建物の一部として簡易宿所や特区民泊として使用する場合は16項(イ)になります。)

不特定多数の人が出入りする建物では、火災が発生した場合に甚大な被害が生じることが考えられます。

そこで「不特定多数の人が出入りする建物」を「特定防火対象物」として、用途や規模に応じた防火設備・消防設備の設置が義務つけられています。

(5)項イの用途の建物は「特定防火対象物」になります。

(5)項イとなった場合は、旅館・ホテルと同等の消防設備が必要ということになります。

基本的に住宅宿泊事業(民泊新法)の民泊(届出住宅)は5項(イ)に該当します。

5項(イ)で必要な消防用設備

但し、以下でご説明するように例外も設けられています。

令別表第1(5)項ロに掲げる防火対象物とは

令別表第1(5)項ロに掲げる防火対象物とは「寄宿舎、下宿又は共同住宅」です。

どのような建物が該当するかと言いますと、「出入口廊下、階段等を共用する建物」です。

要はアパートやマンションなどが該当します。

但し、長屋は出入口廊下、階段等を共用しませんので共同住宅には該当しません。

(5)項ロの用途の建物は単なる「防火対象物」ですので、「特定防火対象物」にはなりませんので、(5)項イに比べると必要な消防設備の設置基準は緩くなります。

5項(ロ)で必要な消防用設備

「住宅」とは

住宅とは戸建住宅や出入口廊下、階段等を共用していない長屋などを指します。

住宅には自動火災報知機の設置などは義務付けられていません。

「宿泊室」とは

宿泊室とは以下のように定義されています。

規則第4条第4項第1号ト(4)に規定する宿泊者の就寝の用に供する室

何のことかよくわかりませんね。

それでは、規則第4条第4項第1号ト(4)には何と書かれているのかを見てみましょう。

居室(法第五条に規定する居室をいう。第九条第四項第二号において同じ。)、宿泊室(宿泊者の就寝の用に供する室をいう。以下この号において同じ。)及び宿泊者の使用に供する部分(宿泊室を除く。)のそれぞれの床面積

宿泊者が生活する部分が「居室」、眠るところが「宿泊室」、台所・浴室・洗面などが「宿泊者の使用に供する部分」ということになります。

つまり「宿泊室」とは宿泊者の「寝室」を指します。

この宿泊室の広さが消防設備に関して大きな意味を持ってきます。

住宅宿泊事業者が不在の場合

住宅宿泊事業者が不在の場合とは、マンションなどの一室または戸建一軒をそのまま貸し出すケースです。

自分の住んでいる家の一部を貸すようなケース以外は、ほとんど「住宅宿泊事業者が不在」に該当すると思います。

このタイプの民泊は先程ご説明しました5項(イ)に該当しますので、ホテルや旅館などと同等の消防設備の設置が必要になります。

住宅宿泊事業者が不在とならない場合

住宅宿泊事業者が不在とならない場合とは、民泊の事業者が住んでいる家の一部を民泊として貸し出すケースです。

いわゆる「家主滞在型」と呼ばれるもので、ホームステイのような宿泊形態の民泊です。

家主不在型民泊の場合、宿泊客の寝室部分の広さによって設置しなければいけない消防設備が異なります。

宿泊室の床面積の合計が50㎡以下の場合

自分の住んでいる家の一部を貸し出すスタイルの民泊で、宿泊客の寝室が50㎡以下の場合は「住宅」となります。

自動火災報知機の設置も不要です。

宿泊室の床面積の合計が50㎡超の場合

自分の住んでいる家の一部を貸し出すスタイルの民泊であっても、宿泊客の寝室が50㎡を超す場合は5項(イ)の消防設備となります。

旅館・ホテルと同じ消防設備が必要になりますので、全てに自動火災報知機の設置が必要になります。

具体的な例

それでは、具体的にどのような場合に旅館業と同等の消防設備が必要になるのかをみてみましょう。

投資用に購入した物件を貸し出す場合

自分が住んでいない物件を貸し出す場合は、旅館・ホテルと同じの消防設備が必要になります。

管理などを住宅宿泊管理業者に委託するようなケースは、旅館・ホテルと同じ消防設備の設置が必要になります。

空き家を貸し出す場合

相続をしたけれど住む人がいないために空き家になっている物件を、住宅宿泊管理業者に委託して貸し出す場合は、旅館・ホテルと同等の消防設備が必要になります。

自分の家の2階部分を貸す

自分が住んでいる戸建の2階部分を貸すような場合はどうなるのでしょうか。

その場合は2階部分の寝室部分の広さによって必要となる設備が変わってきます。

寝室が50㎡以下の場合は自動火災報知機の設置は不要です。

寝室が50㎡を超す場合は旅館・ホテルと同じ消防設備の設置が必要になります。

まとめ

まとめ

いかがでしたでしょうか。

「住宅を貸す」といっても実際には旅館・ホテルと同じように不特定多数が出入りすることに変わりはありませんので、消防設備の設置も旅館・ホテルに近いものになるということがご理解頂けたのではないかと思います。

消防設備は「想定していた以上に費用がかかる」と思われるかもしれませんが、宿泊者の命にかかわることですので、法令で設置を定められている場合は必ず法令を守って設置しましょう。