旅館業法で決められたトイレの数

民泊ビジネスのご相談を頂くときに「民泊を始めるには旅館業法という壁がありますから」と言われることがあります。

※2018年に施行された住宅宿泊事業法により、旅館業法の許可がなくても、民泊ビジネスが可能になりました。

しかし、そう言われる人の中でも、意外と旅館業法の「何」が壁になるのかを明確に認識されていない人も多いように思います。

旅館業の要件として、「広さ」「消防設備」と並んで、実は「トイレの数」が問題になることが多いのです。

「え?トイレの数?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

今回は、どのように「トイレの数」が決められているのかを、分かりやすくご説明したいと思います。

旅館業の営業種類別要件

旅館業法の営業の種類

旅館業には旅館・ホテル営業、簡易宿所営業、下宿営業の3種類があります。(詳しくは『旅館業法とは』をご参照下さい)

旅館業法では営業の種類によってトイレの種類や設置方法が決められています。

旅館業法施行令によると、旅館・ホテル営業ともに、「適当な数の便所を有すること」と規定されています。

今回は「旅館・ホテル営業及び簡易宿所のトイレの要件」をご説明していきたいと思います。

また、トイレや洗面の数は旅館業法ではおおまかに規定して、詳細は各自治体の条例で規定されていますので、細かい数字や条件は自治体によって異なります。

このページでは大阪市の条例に関してみていきたいと思います。

その他の地域の条例も似通った部分はたくさんありますので、ご参考までにご覧頂けましたら幸いです。

適当な数のトイレ

トイレの数

旅館業法施行令では、旅館・ホテル営業及び簡易宿所のトイレの数は「適当な数」と規定されています。

「適当な数って言われても・・・」と困ってしまいますが、この「適当な数」がどれくらいなのかは、各自治体の条例で定められています。

例えば大阪市では「旅館業における衛生等管理要領」に準じたかたちで、以下のように収容定員によって便器の数が規定されています。

また、この下記の場合、大便器と小便器の割合は、原則としてほぼ同数にすることともされています。

収容定員が30人以下の場合
収容定員 便器数
大便器 小便器
1~5
6~10
11~15
16~20
21~25
26~30

共同トイレの設置

共同トイレ

共同トイレとは「男子用と女子用とを区分したトイレ」のことを指します。

つまり、「男女兼用トイレ」は共同トイレには該当しません。

簡易宿所というのは多人数で共用する宿泊施設という定義ですので、共同トイレ、つまり男女別のトイレを各自治体の条例で規定された数だけ設置しなければいけません。

洗面設備の設置

手洗い場

トイレ以外に手洗い設備を設置しなければいけません。

「トイレの中にあるからいいでしょ」と思われるかもしれませんが、それでは設置したことにはなりません。

トイレの中に手洗い用の蛇口(給水栓)があったとしても、水洗として数えられないのです。

大阪市が旅館業営業許可の基準としている「旅館業における衛生等管理要領」には以下のように規定されています。

洗面所は、宿泊者の需要を満たすことができるよう適当な規模を有し、次の要件を満たす構造設備であること。
(1) 洗面所は、宿泊者の利用しやすい位置に設け、十分な広さを有していること。
(2) 洗面設備は、不浸透性及び耐熱性の材料を用いて作られ、清掃が容易に行え、かつ、流水受槽式の構造であって、十分な大きさを有すること(1給水栓当たり幅員0.6m、奥行0.5m以上が望ましいこと。)。
なお、洗面設備には、給湯ができる設備を有することが望ましいこと。
(3) 洗面設備には、洗面に必要な石ケン、消毒液、タオル、紙製タオル等のものを置くことができる設備を備え付けることが望ましいこと。
(4) 共同洗面所を設ける場合、その洗面設備の給水栓は、収容定員(洗面設備を付設する客室の定員を除く。)に応じて適当な数を有すること(5人当たり1個以上の割合で、ただし、30人を超える場合10人当たり1個以上の割合が望ましいこと。)。
(5) 共同洗面所に共同洗面設備(2給水栓以上を隣接して設け、ひとつの受水槽を共用するものをいう。)を設ける場合は、給水栓の間が適当な間隔を有していること(おおむね0.7m以上が望ましいこと。)。

もし収容人数を6人とした場合、蛇口が2つ必要になります。

しかも、「1給水栓当たり幅員0.6m、奥行0.5m以上が望ましいこと」とされていますので、2つ設置となると、ある程度の広さも必要になります。

その他のトイレの条件

数や手洗設備以外にも下記のような規定が設定されています。

望ましいということは、絶対条件ではありませんが、この条件をクリアしなければ許可がおりない可能性もあります。

実際に申請する際には、申請窓口の担当者と相談しながら進めていくことになります。

トイレの広さ

トイレの広さに関しても「望ましい」という表現で以下のような条件が挙げられています。

  • 大便所は、適当な広さを有する(おおむね幅員0.9m、奥行1.2m以上が望ましいこと。)構造であること。
  • 座便式便所を設ける場合は、便所の正面の出入口からおおむね0.4m以上の間隔を有することが望ましいこと。
  • 小便器を隣接して設ける場合、小便器の間は、適当な間隔を有すること(おおむね0.7m以上が望ましいこと。)

トイレの設備

換気設備は必須条件、掃除用具の保管に関しては望ましい条件として挙げられています。

  • 便所は、悪臭を排除するため適当な換気設備を備え付けること。
  • 便所には、清掃用具専用の保管設備及び洗い場を設けることが望ましいこと。

トイレの要件が「壁」になる理由

リフォーム

今まで見てきましたように、かなり細かくトイレの要件が決められていますが、普通の住宅用の家やマンションで男女別トイレがあるというところも少ないと思います。

そうなると、トイレを増設するリフォームが必要ということになり、数十万円から百万円以上の費用がかかる可能性もあります。

これが、トイレの要件が「壁」になる最も大きな理由です。

そういったリフォーム費用を出したとしても回収出来るかを考える必要があります。

トイレの制限をなく民泊を行うことはできる?

国家戦略特区で制定されている「民泊特区」にはトイレの数などに関する規定はありません。

民泊特区で認可された宿泊施設は、旅館業法の適用がありませんので、条例に規定がなければ、トイレの数は関係なく営業することが出来ます。

ただし、民泊特区には宿泊日数など、旅館業法にはない規定もありますので、十分ご注意ください。

特区民泊に関しては『特区民泊とは』をご参照下さい。

2018年に施行された住宅宿泊事業法により、旅館業法の許可がなくても、民泊ビジネスが可能になりました。

一般住宅としてのトイレがあれば、民泊の営業は可能です。

 住宅宿泊事業法による民泊に関しては『住宅宿泊事業法(民泊新法)とは|「民泊新法(住宅宿泊事業法)」を全解説します!』をご参照下さい。

まとめ

まとめ

いかがでしたでしょうか。

トイレ一つとっても、これだけ細かく条件が決められているのに驚かれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

こういった条件を調べずに、「民泊ビジネスをはじめよう!」と思い立って、先に物件を買ってしまって、後から後悔するようなことになると大変ですので、まずは法令をじっくり調べてから物件を探すことをおすすめします。

民泊条例では、こういったトイレの制限を設けていない自治体が多いのですが、旅館業法には無い民泊条例だけにある制限もありますので、注意が必要です。

今後も、旅館業法の規制緩和の可能性もありますので、そういった動きを見ながら、どこでどんな物件を使って民泊を始めるかを決められるのが良いかと思います。