積算価格と収益価格

不動産投資の本を読んでいると、「積算価格」や「収益価格」という言葉を目にされたことがあると思います。

積算価格と収益価格は同じ不動産(物件)に対しての価格なのですが、評価の方法や着目している点が全く異なります。

民泊を始めるために物件を購入する場合、特に銀行から借り入れをして購入する場合には、この積算価格と収益価格は非常に重要になります。

このページでは「積算価格」と「収益価格」について詳しく見ていきたいと思います。

積算価格って、何?

土地の鑑定評価方式には、同じ物をもう一度作った場合にいくらかかるかを基礎にして計算する「原価法」、周辺不動産の取引事例を基礎にして計算する「取引事例比較法」、不動産からどれくらいの収益が生み出されるかを基礎にして計算する「収益還元法」という3種類の手法があります。

この3種類の手法の内の「同じ物をもう一度作った場合にいくらかかるか(再調達原価と言います)」を基礎にして計算された価格、つまり「原価法」という手法で求められた価格のことを「積算価格」と言います。

何故、積算価格が重要なの?

何故積算価格が重要なのか

簡単に言いますと、「金融機関が積算価格を重視しているから」です。

物件を購入する場合、銀行などの金融機関から借り入れをして購入するケースが一般的だと思います。もちろん、銀行は担保がなくてはお金を貸してくれませんので、あなたの持っている物件や購入する物件を担保に入れることになります。

銀行は、あなたが担保に入れる物件にどれくらいの価値があるかを評価するのに、あなたの物件の「積算価格」を最も重視するのです。

大雑把に言うと、担保に入れる物件の積算価格が高ければ沢山融資してもらえる可能性が高く、積算価格が低ければ、希望の融資額に足りない額しか融資してもらえない可能性があるということです。

積算価格って、どうやって計算するの?

積算価格は土地の価格と建物の価格を別々に計算して、その価格を合算して求めます。

土地の計算方法と建物の計算方法はことなりますので、以下、それぞれの計算方法を見ていきたいと思います。

土地の積算価格の計算方法

土地の評価は、主に「相続税評価額路線価」、「固定資産税路線価」、「公示価格」といった価格をベースに、土地の形状などの事情を考慮して評価します。

積算価格を計算する場合は、「相続税評価額路線価」を用いるのが一般的と言われています。

「でも、相続税評価額路線価って、どうやって調べるの?」と思いますよね。

実はすごく簡単なんです。

こちらのサイト(全国地価マップ)に調べたい土地の住所を入れると一発で判ります。

例えば、相続税路線価が「150D」と表示されていたら、1㎡あたり150,000円ということです。(最後のアルファベットは無視して下さい)

この土地の100㎡の積算価格は150,000円×100㎡で1500万円という計算になります。

土地の積算価格の注意点

袋地からのびる細い敷地で道路に2m以上接するような土地を「旗竿地」(土地の形状が竿のついている旗に似ているため)と呼びますが、旗竿地以外でも、正方形や長方形などの整形地ではなく、L字型や台形、三角型などの土地のことを「不整形地」と呼びます。

このような不整形地の積算価格は、一般的には整形地の積算価格よりも下がりますので注意が必要です。

整形地と旗竿地は形状以外の条件が同じ場合、旗竿地の評価額は整形地の70~80%程度になると言われる方もいらっしゃいます。

不整形地

建物の積算価格の計算方法

それでは、今度は建物の積算価格をどのように計算するのかを見ていきたいと思います。

建物の積算価格は以下のような式で求められます。

●建物の積算価格=再調達価格×延べ床面積×(残存年数÷法定耐用年数)

再調達価格って、どうやって計算するの?

私は初めて「再調達価格」と聞いた時に、その家を建てた時の材料原価まで調べるのかと思い、とんでもなく大変な作業だなあと思ったのですが、実はそんなことしません。

建物の構造がどうなっているかで再調達価格は決まります。

再調達価格も銀行によって若干幅はあるみたいですが、おおまかには以下の通りです。

  • 鉄筋コンクリート(RC) 20万円/㎡
  • 重量鉄骨 17~18万円/㎡
  • 木造 15万円/㎡
  • 軽量鉄骨 13~15万円/㎡

例えば、木造で100㎡の建物であれば15万円×100㎡で1500万円ということになります。

法定耐用年数って、一体何?

建物の耐用年数とは、建物が利用に耐える年数のことで、これも構造や用途によって国が年数を定めています。

住宅用の法定耐用年数は以下の通りです。

  • 鉄筋コンクリート(RC) 47年
  • 重量鉄骨(骨格材の肉厚が4mmを超えるもの) 34年
  • 木造 22年

積算価格の計算式の中にある、「残存年数」というのは、耐用年数がどれくらい残っているかという年数です。

例えば、木造で築11年の場合、木造の法定耐用年数が22年ですから、残存年数は22年-11年=11年となります。

積算価格の計算例

それでは、実際に積算価格を計算してみましょう。

路線価15万円の土地100㎡の場合

土地の積算価格は以下のように求められます。

15万円×100㎡=1500万円

築11年の延べ床面積100㎡木造建物の場合

建物の積算価格は以下のように求められます。

15万円×100㎡×(11年÷22年)=750万円

積算価格の算出

積算価格は土地と建物の価格を合算しますので、以下のように求められます。

1500万円(土地の積算価格)+750万円(建物の積算価格)=2250万円

収益価格って、何?

収益価格は、評価の対象となる物件によって、将来得られると想定される家賃や地代等の収益に着目して計算する価格です。

積算価格と収益価格って、何が違うの?

積算価格と収益価格の違い

「積算価格」は建物を再度建てる場合の「費用」に着目して計算します。この計算方法を「原価法」と言います。

それに対して、「収益価格」は、将来得られると想定される「収益」に着目して計算します。この計算方法を「収益還元法」と言います。

つまり、「積算価格」は現在の物件の資産価値を評価するもので、「収益価格」は今後物件から得られる収益を評価するものだと言えると思います。

「積算価格」は銀行の融資の際に重視され、「収益価格」は物件を売買する際に重視される傾向にあります。

但し、売買の場合も融資の場合もどちらか一つだけを見ると言うことではなく、どちらの価格も考慮しながら決めることになります。

収益価格って、どうやって計算するの?

収益価格の計算方法には、「直接還元法」と「DCF法」の2通りの計算方法があります。

DCF 法は、将来のキャッシュフローを現在価値に直す計算方法なのですが、かなり専門的な計算になりますので、このページでの説明は割愛致します。

直接還元法の計算方法

直接還元法は以下の計算式で求められます。

●収益価格=1年間の純収益÷還元利回り

これだけ見ても判り難いと思いますので、各用語に関して詳しく見ていきたいと思います。

1年間の純利益って、どうやって計算するの?

1年間の純利益は以下の計算式で求められます。

●1年間の純利益=1年間の収入?1年間の諸経費

収入は主に家賃や地代などの収入です。月の家賃収入が10万円の場合は10万円×12ヶ月で120万円が1年間の収入になります。

費用は固定資産税や都市計画税といった税金や管理会社へ支払う管理費やマンションの修繕積立金などがあります。

1年間の収入が120万円で1年間の諸経費が20万円だったとすると、1年間の純利益は100万円ということになります。

還元利回りって、どうやって決めるの?

還元利回りとは、一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される利回りです。

還元利回りを想定するためには、さまざまな情報を基に複雑な計算式を用いて算出しますので、還元利回りの算出は専門家に任せされるのが良いかと思います。

ここでは基本的なところで、どういった点に着目して還元利回りを出すのかの一例を見ていきたいと思います。

※通常、不動産会社の広告に書かれている利回りは「表面利回り」なので、これをそのまま還元利回りに適用することは出来ません。(表面利回りに関しましては『表面利回りと実質利回り』をご参照下さい。)

●類似物件の取引事例を参考にする

類似物件とは周辺の物件で、建物の構造や間取り、オートロックなどの設備や駅やスーパーまでの距離などなど、様々な条件がありますが、全ての項目を調べるのは難しいので、特にご自身として基準としてもっている項目は最低でも近い物件を対象にされると良いと思います。

取引事例はJ-REITREINS MARKET INFORMATIONのようなWEBサイトで、おおまかな価格は確認出来る場合があります。

●販売中の物件を参考にする

販売中物件は実際に不動産会社へ訪問したり、ホームページなどから情報を集めます。

先程書きました通り、販売中物件の広告に書かれている利回りは一般的には「表面利回り」ですのでご注意下さい。還元利回りの算出に際して表面利回りを参考にします。

※還元利回りを決めるにはこの他に、借入金と自己資金から求める方法、土地と建物から求める方法、割引率との関係から求める方法などがあります。

直接還元法の収益価格計算例

それでは、例をあげて直接還元法の収益価格の計算を見ていきたいと思います。

<物件情報>

  • 家賃:10万円/月
  • 諸経費:20万円/年
  • 還元利回り:5%

純利益=10万円×12?20万円=100万円

収益価格=100万円÷5%=2000万円

となり、この物件の収益価格は2000万円ということになります。

まとめ

まとめ

いかがでしたでしょうか。

積算価格と収益価格の違いをご理解頂けたかと思います。

土地のところでお話したように、土地の形状など様々な事情を加味して積算価格の増減をされる場合はありますが、積算価格のベースとなるのは今回見た計算式で求められる価格になりますので、この計算式は必ず覚えておかれるのが良いかと思います。

また、銀行は、この積算価格を参考にして融資金額を決めることが多い(最近は以前よりもその傾向が低いと言われています)と言われていますが、積算価格と同額の融資がされるわけではありませんので、その点は十分気を付けて下さい。(融資額が積算価格の60%~70%くらいが目安になると言われる方もいらっしゃいます)

あくまで積算価格は融資額のだいたいの目安としてお考え下さい。

収益価格の計算は、還元利回りをどのように設定するかで変わってくるので、還元利回りの設定が非常に重要になります。

ただ、民泊ビジネスの場合は数年単位で契約する賃貸と違って毎回借主を探さなければいけないので、賃貸の考え方とは異なる場合もあります。

物件の売買に際しては、この収益価格がポイントになりますので、将来物件を売ることを想定した場合、必ず見ておかなければいけない価格だと言えると思います。