2016年の臨時国会に提出を予定されている民泊新法が施行されると、合法的に民泊ができる条件が大きく緩和され、かなりの数の参入があるのではないかと思います。
合法民泊の参入者に加えて、ホテルの建設ラッシュなど、将来の宿泊施設の需要と供給を予想せずに安易に民泊ビジネスに参入してしまうと、リフォーム代の元も取れないような事態にならないとも限りません。
民泊新法後の民泊ビジネスに関して、データを見ながら予測してみたいと思います。
※2018年に施行された住宅宿泊事業法により、合法的に民泊ができる条件が大きく緩和されました。
2019年8月15日時点の民泊登録件数は1万8111件、前年の民泊新法施行時の約9倍(同時点での届け出件数は2210件)。(観光庁発表)
みずほ総合研究所の試算
2015年8月10日のみずほ総合研究所のレポートでは、2020年に19,711室の宿泊施設の不足を予想したデータがあります。(みずほ総合研究所:インバウンド観光と宿泊施設不足)
このデータで興味深いのは、東京と近畿では2020年までに宿泊施設が不足するだろうと予測されているのですが、東京と近畿以外の地域では2020年になっても、宿泊施設は不足しないのではないかと予測している点です。
民泊新法で規定される民泊は、ホテルなどの宿泊施設が不足する問題を解消する手段として有効ですが、ホテルの部屋が余っているような地域では、ホテルに対してのメリットを明確に打ち出せなければ、営業をすることは難しいかもしれません。
民泊ビジネスを始める場合、「どこで始めるか」が非常に重要になると思います。
ホテルの建設ラッシュ
それでは、みずほ総合研究所のデータで2020年でも大幅に宿泊施設が不足するだろうと予測されている東京や近畿地方であれば、民泊を始めても安心なのでしょうか。
みずほ総合研究所の試算にあるように、特に宿泊施設不足が懸念される近畿圏では、ホテルの建設ラッシュが始まっています。
みずほ総合研究所の予測データは2015年8月時点のものですので、それ以降につくられた建設計画もたくさんあるのではないかと思います。
既存のホテル業界はもちろん、異業種からの新規参入も増えているようです。
以下に、現在計画されている新規ホテルの開発予定をご紹介します。
星野リゾート
2023年10月の発表によると、2024年に開業予定の施設は以下の通りです。
4月11日開業の「OMO5東京五反田 」は地上60メートルの14階にカフェ、ショップ、ドッグガーデン、水景のある空中庭園などのエリアがあり、愛犬と泊まれる客室「ドッグフレンドリールーム」が用意されています。
また、4月25日開業の宮城県秋保温泉の「界 秋保」では、全室から四季折々の渓流を楽しめます。
6月13日リニューアルオープンの「OMO7高知」は、よさこい祭りを体感でき、高知の宴会文化がコンセプトの客室として団体旅行、宴会、会議の受け入れ体制を整えています。
さらに夏には「ホテルWBF函館 海神の湯」がOMOブランドとしてリニューアルオープンする計画です。
そして秋には「界 奥飛騨」が「飛騨の 匠(たくみ)」の歴史と文化を感じられる空間、体験を提供すると開業予定になっています。
同社は「地域性を活かした滞在の提案や、ユニークな体験など、独自のおもてなしのあり方を進化させ、世界に通用するホテル運営会社になることを目指し活動していきます」と述べています。
日本エスコン
大阪市中央区平野町ホテルプロジェクト(地下鉄御堂筋線「淀屋橋」駅 徒歩 4 分)地上 9 階建てで、総 客 室 数は96 室、2017年に開業されました。
その後、以下のホテルが開業されました。
- 北海道札幌市中央区プロジェクト :北海道札幌市中央区南 7 条西 4-2-1
- 大阪市中央区淡路町Ⅰプロジェクト :大阪市中央区淡路町 3-2-7
- 石川県金沢市尾山町プロジェクト :石川県金沢市尾山町 170-1
- 大阪市中央区北久宝寺プロジェクト :大阪市中央区北久宝寺
- 大阪市中央区淡路町Ⅱプロジェクト :大阪市中央区淡路町
- 大阪市中央区南船場Ⅰプロジェクト :大阪市中央区南船場
- 大阪市中央区南船場Ⅱプロジェクト :大阪市中央区南船場
- 大阪市中央区南船場Ⅲプロジェクト :大阪市中央区南船場
◆用地取得済み物件
- (仮称) 札幌市中央区南7条西4丁目プロジェクト :札幌市中央区南7条西
- (仮称)奈良市下三条町プロジェクト 所在地 奈良市下三条町47番1、百万ヶ辻子町1番1、林小路町34番1
(日本エスコン:ホテル開発事業の着手、取り組み状況に関するお知らせ)
民泊の合法化による参入者の急増
先程のみずほ総合研究所の予測では2020年にはホテルの新規開業を考慮しても、近畿地区だけで約2万室の宿泊施設が不足するだろうという結果でした。
「そんなに不足するんだったら、民泊を始めたら絶対に稼げるだろう!」と考えてしまうのは、ちょっと危険だと思います。
それではなぜ危険なのかを考えてみましょう。
airbnbの物件登録件数
airbnbにはどれくらいの宿泊施設が登録されているのでしょうか。
2015年12月14日の第2回「民泊サービス」のあり方に関する検討会でairbnb社から提出された資料によりますと約21,000件とされています。(Airbnb,Inc. ご提出資料(PDF:6,163KB))
airbnbに登録されている3/4が東京23区と大阪・京都(1:1)と仮定すると東京8,000件、大阪・京都で8,000件くらいでしょうか。
登録件数は2015年12月からは更に増えていると思いますが、だいたいの目安の数字としては大きくは外れていないと思います。
みずほ総合研究所のデータには無許可営業で登録しているairbnbの民泊8,000件は宿泊施設として計算に入れられていないと思いますので、ホテル以外に8,000室増えたとしても、まだ2020年には近畿地区だけでも12,000室は不足する予測になります。
民泊合法化での参入者の増加
「2020年でもまだ近畿地区だけで12,000室も宿泊施設が不足すると予想されるのであれば、やっぱり民泊を始めれば簡単に儲かりそう」と思われるかもしれませんが、本当にそうでしょうか?
airbnbなどで反復継続して宿泊料をとって宿泊施設と提供する行為は旅館業に相当するので旅館業の営業許可が必要である、と行政は明言しています。
つまり、旅館業の営業許可無しで営業することはグレーではなく違法行為になります。
京都市がおこなった調査では、旅館業の許可を取得した合法な民泊施設は7%しかなかったという結果があります。(詳しくは『京都市民泊施設実態調査について』をご参照下さい。)
ということは、93%は違法で営業をしていた可能性があるということになります。
「投資として民泊をやってみたいけど、違法行為はできないから民泊はやめておこう」と考えている人はかなりの数いらっしゃるのではないでしょうか。
実際、私の事務所にご相談を頂いた方の中で「合法的な投資をしたいので、旅館業の許可を取ろうと思ったのですが、設備投資がかかり過ぎて採算が合わないので民泊はあきらめます」と言われた方もたくさんいらっしゃいます。
新法民泊で規定される「民泊」は旅館業ほどの設備投資は必要がなく、登録さえすれば始められるので、かなり簡単に民泊を始められるようになると予想されます。
ですから、民泊新法で「合法で民泊が出来る」ということになれば、相当な数の参入者が出てくるのではないかと思います。
合法民泊の物件の数は、現在airbnbなどの仲介サイトに登録されている物件の数倍の規模になる可能性もあります。
そうなると、2020年に宿泊施設が不足するという予測から、宿泊施設が余るという予測になる可能性もあると思います。
このように民泊新法が施行されると、集客の競争も価格の競争も相当激しくなるのではないかと思います。
空き家オーナーの民泊参入
2016年7月19日の小池百合子さんの都知事選の街頭演説の中で以下のようなお話がありました。
空き家問題っていうのはこの豊島区において起こっているもので、27万人の人口の中で、2万件を超える空き家、空き室があるんです。住宅の1割が空き家なんです。
現在、日本中で空き家が問題視されていますが、宿泊施設不足といわれる東京23区の中でもこれほどの空き家があるという事実には驚きます。
もし豊島区の空き家が全て民泊になれば、2020年での東京都の宿泊施設不足の問題は解決されてしまうかもしれません。
平成25年に公表されたもので、日本全国に空き家が約820万戸(2018年公表では849万戸)あるというデータがあります。(詳しくは『空き家を利用した民泊ビジネス』をご参照下さい。)
投資ではなく「相続した家が空き家になっているけど、固定資産税がかかるから、その分だけでも民泊で稼ぎたい」というような方もたくさんいらっしゃると思います。
「固定資産税分を稼ぐ」「空き家として放置しておくのがもったいない」という動機で民泊を始められる方にとっては、「年間に20万~30万円程度でも収益が出れば良い」という方も多いと思います。
年間30万円の利益であれば、180日の営業日数で1泊1部屋を1,700円で貸せば達成出来ます。
民泊ビジネスを始める場合、このように「維持管理費だけでも稼げればいい」という空き家オーナーと価格面で競争することも想定されます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
ちょっと新規の民泊開業に対してネガティブな文章と感じられたかもしれませんが、私自身は健全な民泊ビジネスがどんどん広がって欲しいと考えています。
ただ、「簡単に儲かりそうだからやってみよう」というような安易な考えで参入されると、「思っていたのと違う!」という結果になりかねないと思うのです。
特に以下の2点がポイントになると思います。
- ホテルの新規開業や民泊の合法化による競争の激化
- 営業日数制限や納税後の収益
今は、違法なことは出来ないと考えている人が参入していないため、競争が激しくなく、利益が出ているというケースもあると思います。
また、確定申告をしていないので、所得税、住民税、社会保険料などがあがらず、その分を利益として考えている方もいらっしゃるのではないかと思います。
2017年以降、民泊新法が施行されると、ガラッと事情が変わる可能性もあります。
競争が激化する中で、どのように自身の物件の差別化をして、収益をあげていくかがポイントになるのだと思います。
「儲からなさそうだから、やめたほうが良いですよ」と言うのではなく、どのようにして効率化、差別化をおこなって行けばよいかを、これからもご相談者様と一緒に考えて、民泊ビジネスが大きく成長するために少しでも力になれればと思っています。
※2018年に施行された住宅宿泊事業法により、旅館業法の許可がなくても、民泊ビジネスが可能になりました。