2016年3月14日に行われた第7回「民泊サービス」のあり方に関する検討会で、『家主が住んでいる家の一部を貸し出す、いわゆる「ホームステイ型民泊」に関しては届出制を検討する』という内容の報道がされています。
「許可制」と「届出制」は似ているように感じるかもしれませんが、全く異なるものです。
今回は「許可制」と「届出制」の違いと、第7回「民泊サービス」のあり方に関する検討会で議論された「ホームステイ型民泊」の位置づけに関してみていきたいと思います。
※2022年月6月15日改正施行の住宅宿泊事業法では、住宅の所在地を管轄する都道府県知事等に届出です。
「許可制」と「届出制」の違い
許可制と届出制はなんとなく似ている感じもしますが、前提は全く逆になります。
それでは許可制と届出制とはどのようなものかを見てみましょう。
許可制とは
「許可制」とは「ある種の行動をひとまず一般的に禁止したうえで、個々人についてこの禁止を解除するかどうかを行政庁に決定させるというしくみ」と定義されています。
つまり、前提として「行為を禁止」して、行政が許可した人だけ、その禁止を解除して、行為をおこなってもよいとすることです。
例えば、旅館業の営業は許可制ですので、基本的には旅館業の営業は行ってはいけません。
但し、許可を得た人には営業の禁止を解除して、旅館業の営業をしてもよいとすることが「許可制」です。
許可を受けるためには規定された条件をクリアしなければなりません。
届出制とは
「届出制」とは、「放任状態では、違法行為が行われる可能性があるため、ある行為を行うに当たって、監督官庁に事前通知する義務を課した制度」と定義されています。
なんら禁止されている行為ではないので、おこなっても良いのですが、違法行為が行われた場合に行為をおこなっている者を把握しておくために、たんに監督官庁に事前の届出が必要ということです。
「許可制」が規定された要件を満たしていること条件であるのに対して、「届出制」は届出を受けた監督官庁は、違法行為に直結するとの証拠がない限り届出を却下できません。
つまり、「許可制」は禁止された行為を行うための手続であるのに対して、「届出制」は禁止されていない行為を行うための手続だと言えます。
「ホームステイ型民泊」が「届出制」となった場合、「前提として誰でもホームステイ型民泊を営業してもいいのですが、事前に届け出だけはして下さい」ということになります。
ですから、許可制から届出制に変えるということは、非常に大きな変更になります。
マスコミの報道内容
マスコミ各社で「ホームステイ型民泊は旅館業法対象外」というような書き方をされています。
SankeiBiz (3月16日(水)8時15分配信)
民泊規制緩和、有識者会議が大筋合意 「ホームステイ型」は届出制
一般住宅に有料で旅行者などを泊める「民泊」の法的位置づけをめぐり、厚生労働省と観光庁の有識者会議は15日、家主が居住する住宅を利用する「ホームステイ型」に関しては現行の旅館業法の規制対象外とする方向で一致した。今後、戸建て住宅とマンションなど共同住宅の線引きや、認められる営業日数などについて検討し、6月中に報告をまとめる。
朝日新聞デジタル (3月15日(火)16時47分配信)
ホームステイ型民泊、届け出ればOK 営業許可不要へ
厚生労働省は、空き部屋などに旅行者を有料で泊める「民泊」のうち、家主が同居する「ホームステイ型」について、将来的に都道府県などへの届け出のみで営業できるようにし、審査や営業許可の取得は不要とする方針を固めた。
※2022年月6月15日改正施行の住宅宿泊事業法では、住宅の所在地を管轄する都道府県知事等に届出、年間提供日数の上限は180日(泊)です。
ホームステイ型民泊規制緩和に関して
上記のようにホームステイ型民泊の規制緩和で合意したという報道になっていますが、第7回「民泊サービス」のあり方に関する検討会の議事録を見る限り、以下のように全員が一致しているとも思えないような内容になっています。
傍聴をしていないので、何とも言えないのですが、今後の流れに注意してみていきたいと思います。
それでは議事録にあった意見を見てみましょう。
ホームステイ型民泊緩和賛成派意見
まず賛成派の意見は、ホームステイ型民泊を旅館業対象外にした上で、その他の規制も出来るだけしないようにするべきといった考えが多いように思います。
- 一戸建てで家主が居住しているホームステイタイプについては、全面自由化して住居専用地域で認めて良いのではないか。
- ホームステイ型とそれ以外を分けて考えるべき。
- 一戸建て、家主居住で貸出日数が制限されているものについては、実質的に住宅とみなせないか。
- 旅館業法の宿泊拒否の制限規定はホームステイ型民泊にはなじまない。
- 家主居住のホームステイのケースでは、利用者がごく少数のため、旅館業法を適用する必要はないのではないか。
ホームステイ型民泊緩和中間派意見
中間派の意見はホームステイ型民泊は旅館業法対象外としたとしても、一定の規制はするべきという考えの方が多いように思います。
- ホームステイ型の民泊については旅館業法の適用除外にした上で、一定の規制を設けるべき。
- 住宅か旅館業かの線引きについては、営業日数を年間30日までとし、事前申告する ことで旅館業では無いことをきちんと担保するルールが必要。
- 家主がいる・いないで議論するのは適当だが、家主がいる場合でも、反復継続する以上、旅館業法を適用しなくてよいかについては、よく議論した方がよい。
- 有償で宿泊サービスを提供するのは旅館業そのものなので、旅館業法を見直さない限り、対応は難しいと思うが、せいぜいホームステイタイプを規制緩和の対象と考えるので十分ではないか。
- ホームステイタイプであれば、管理の問題やフロントの設置義務などの問題を解決できるが、家主不在型は認めるべきでない。
ホームステイ型民泊緩和反対派意見
反対派の意見はホームステイ型民泊も旅館業法適用するべき、または時間をかけて検討するべきという考えの方が多いようです。
- ホームステイタイプのものだけを旅館業法の適用範囲から外して規制緩和することは反対。
- ホームステイ型を旅館業法の適用外とすべきかどうかについては、時間をかけて検討する必要がある。
- ホームステイ型であっても、サイドビジネスとして反復して行っている事例もあり、 必ずしも国際交流で営利目的ではないということではない。
ホームステイ型民泊の緩和のポイント
ホームステイ型民泊は届出制で旅館業法の対象外として一切規制しないとなると、騒音などの近隣住民とのトラブルや犯罪の温床となるなどの危険がありますので、どのように規制をするかが今後のポイントになると思います。
今回の検討会であがったポイントに関して、以下にご説明したいと思います。
同じ家に家主がいること
同じ家に家主がいれば、宿泊客が夜中に騒ぐなどトラブルの懸念が小さいと思われますので、「家主が同じ家にいる」ことをホームステイ型民泊の条件とするべきという意見がありました。
一方、民泊規制緩和推進派からは、家主が住んでいなくても、管理事業者がトラブル対応することで営業を認めるべきだという意見がありました。
家主不在で管理会社に任せてOKということであれば、ほとんどの案件が「ホームステイ型民泊」にすることが可能になります。
家主の不在物件を「ホームステイ型民泊」に位置付けるかが大きなポイントになると思います。
年間営業日数30日
他国の例にならって「年間営業日数30日以内」のような営業日数の規定を定めるべきという意見も出ています。
確かに「ホームステイで有償で年間200日貸し出し」なんて言われると、ちょっとホームステイという言葉とは違和感を感じる人も多いのではないでしょうか。
※2018年に施行された住宅宿泊事業法では、年間提供日数の上限は180日(泊)です。
住居専用地域での営業
住居専用地域では基本的には旅館・ホテルの営業は出来ません。
住居専用地域には「閑静な住宅環境」を求めて家を購入している人も少なくありません。
そういった地域に連日外国人が出入りするような施設がたくさん出現したら、トラブルになる可能性もあります。
また、家を売却する際に周りがホームステイ型民泊施設ばかりであれば、地価にも影響するかもしれません。
そういった課題がある中で、ホームステイ型民泊を住居専用地域でも営業を認めるかどうかは、大きなポイントになると思います。
※2023年10月時点では、住居専用地域での民泊は各自治体の条例によって、規制されています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
「許可制」と「届出制」が全く異なるものであるとご理解頂けたかと思います。
「ホームステイ型民泊」を旅館業法適用除外して届出制となった場合、前提としてホームステイ型民泊は誰でもおこなって良いということになります。
その場合、ホームステイ型民泊をどのように定義するかということが重要になります。
ルールが曖昧だと、「ホームステイ型民泊です」という届出をして、実質上、どこでも誰でも民泊を始めることが出来るようになる可能性もあります。
犯罪や事故のトラブルが起こってからでは遅いので、「規制緩和ありき」ではなく、最低限、治安面と衛生面だけは安全を担保するような規制緩和を進めて頂きたいと思います。
※2018年に施行された住宅宿泊事業法では、民泊ビジネスを行うには都道府県知事等への届出が必要となっています。