外国人観光客の増加で宿泊施設が日常的に不足するようになって、都市部の個人宅を宿泊施設として提供する新しい「民泊ビジネス」があらわれました。
民泊宿泊事業法の制定以前、民泊ビジネスをおこなうには旅館業法の許可が必要だったのですが、実際には無許可営業の民泊が多かったのも事実でした。(民泊とはどういったものかは『民泊とは』のページで詳しくご説明していますのでご参照下さい。)
民泊のトラブルでは「通路で大声で話をする外国人がうるさい!」「スーツケースをゴロゴロ引きずる音がうるさい!」「エレベーターの中で唾を吐いている」など、共有部分に関する苦情が非常に多くあります。
民泊ビジネスをマンションの一室を貸し出す場合、旅館業の簡易宿所営業許可(民泊許可)に加えて、そのマンションの「管理規約」で民泊利用を禁止されていないことも必要になります。
今回は、マンションの管理規約とはどういったものなのかを分かりやすくご説明したいと思います。
マンション管理規約とは
マンションには年齢、職業、家族構成、国籍などさまざまな価値観が異なる人が集まっています。
そのため、「夜中に話し声がうるさい」「ペット禁止なのに飼っている」「収集日以外にゴミを捨てているのがカラスが集まって困る」などなど、住んでいる人のマナーが問題になりことが多々あります。
そういったトラブルをなくして、住んでいる人みんなが快適に生活できるように、全員が守るべきルールとして定めるのが「管理規約」です。
管理規約には管理組合の運営方法、建物の使用ルール、居住者の負担費用など細かく決められていて、所有者以外に部屋を借りている賃借人も管理規約のルールを守らなければいけません。
特にマンションの民泊のトラブルで多いのは「共有部分」に関するものです。
例えば1億円のマンションに住民専用のプールやゲストルームがあったとします。
1泊1万円で部屋を借りた不特定多数の人達が毎日プールやゲストルームを占領していたら、1億円でマンションを買った人達が不快に思うのは当然ですよね。
そういった状態が続くと、マンションを売ろうとした時の価値が下がってしまう可能性もありますので、マンションの住民みんなでルール作りをする必要があります。
マンションの住民みんなが快適に暮らせるように禁止事項を設定したり、ルールを作ったりするのが管理規約なのです。
「管理規約」はそのマンションの中では絶対的なルールですので、「マンションの憲法」とも呼ばれています。
マンション標準管理規約とは
マンション標準管理規約とは、国土交通省によって作成された「マンション管理規約の見本」のようなものです。
マンションの管理組合が、自分達のマンションの管理規約を作成したりする際に参考とされたりしますが、多くの管理組合では、自分達のマンションの管理規約として、マンション標準管理規約をそのまま採用しています。
ですから、マンション標準管理規約の内容は多くのマンションにとって非常に重要になります。
2018年6月15日から施行された住宅宿泊事業法(民泊新法)の成立にともなって、分譲マンションにおいても住宅宿泊事業(いわゆる民泊)が実施され得ることになりました。
分譲マンションにおける住宅宿泊事業をめぐるトラブルの防止のために、マンション管理組合が住宅宿泊事業を許容するか否かを管理規約上明確化しておくことが望ましいものという考えから、2017年8月29日に「マンション標準管理規約」が改正されました。
改正された標準管理規約では、住宅宿泊事業を可能とする場合と禁止する場合の双方の規定例を示されています。
- 標準管理規約(単棟型)及び同コメント (PDF)(最終改正 令和3年6月22日 国住マ第33号)
- 標準管理規約(団地型)及び同コメント (PDF)(最終改正 令和3年6月22日 国住マ第33号)
- 準管理規約(複合用途型)及び同コメント (PDF)(最終改正 令和3年6月22日 国住マ第33号)
※最終更新:令和3年8月2日
- 【資料1】改正の概要(PDF形式)
- 【資料2】マンション標準管理規約(単棟型)及び同コメント(民泊関係改正)(PDF形式)
- 【資料3】パブリックコメントにおける主な意見の概要とこれらに対する国土交通省の考え方(PDF形式)
マンション標準管理規約の改正(2016年年3月)
先程ご説明しましたように、2017年8月にもマンション標準管理規約が改正されました(民泊関係修正)。
管理組合が各マンションの実態に応じた管理規約を制定、変更する際の参考として、国土交通省は「マンション標準管理規約」をいうものを作成しています。
マンションの運営は時代背景によって、求められるものが異なってきます。
高齢化等を背景とした管理組合の担い手不足、管理費滞納等による管理不全、暴力団排除の必要性、災害時における意思決定ルールの明確化など、様々な課題に対応した新たなルールとして改正された、平成28年3月にマンション標準管理規約の改正に関してもみてみましょう。(2016年3月マンション標準管理規約の改定)
「議決権割合」についての追加解説
2016年3月の改正で「新築物件における選択肢として、総会の議決権(及び譲渡契約時の敷地の持ち分割合)について、住戸の価値割合に連動した設定も考えられる旨の解説」が追加されました。
「議決権?価値割合に連動?・・・」と言われても、ちょっとわかりにくいですよね。
「総会の議決権」とは、マンションの運営に関してのルールなどの様々な取り決めをする総会で、多数決の時に与えられる「一票」のようなものです。
これまで議決権は「一戸一票」のようにそれぞれの管理規約で定められていました。
今回の改正では「住戸の価値」に連動ということも考えられるとしたのです。
これは、すごく乱暴な言い方をすると「価値の高い部屋を持っている人には、それに応じた大きな権利を与える」というようにも取れます。(但し、単純に売値や専有面積に比例して議決権の持分割合を決めるのではないとされています。)
同じ広さでも、1000万円の価値の1戸が1票だとすると、1億円の価値の1戸は10票の権利を与えるという設定もありえるということになります。
今回の改正は、特に、上層階の価格が下層階の価格に比べて何倍もするタワーマンションのような場合は注意が必要になると思います。
「マンションの憲法」である「管理規約」は、議決権の3/4あれば改正出来ます。
仮に、外国人投資家が新築マンションの上層階の高額な部屋をまとめて購入して議決権の3/4以上を持った場合、「民泊禁止」という規約を「民泊使用可」「民泊宿泊客の共有部分の使用可」というような規約に変更できてしまう可能性もあります。
ちょっと極論な感じもするのですが、今回の改正によって下記のような懸念を表わす記事もあります。
【外部記事】マンション管理規約改正で住民総会が中国語で行われる可能性(週刊ポスト記事)
但し、「新築物件における選択肢として」という条件が付いていることと、「住戸の価値割合に連動した設定も考えられる」と解説されているだけで、必ず価値割合に連動すると改正されたわけではない点をご注意下さい。
「広さ」「一戸一票」以外の選択肢の幅を増やすために「価値連動もありうる」としたものと思います。
「民泊利用を禁止」した管理規約の例
民泊利用禁止の管理規約を作成した例としては東京都の「ブリリアマーレ有明」が有名です。
ブリリアマーレ有明では、民泊禁止の理由の一ついとして以下のような点を挙げています。
ブリリアマーレ有明のようなプールやスパといった豪華な共用部を持つマンションにおいて、ルールを知らない見知らぬ人が多数利用するようになるとたちまち共用部分の使用が荒れて区分所有者の資産価値を棄損します。
ブリリアマーレ有明の管理規約の追記事項などは『管理組合法人ブリリアマーレ有明からのヒアリング』で詳しくご説明していますのでご参照下さい。
マンションの専有部分と共用部分
マンション(区分所有建物)には、専有部分と共用部分があります。
マンションは全ての部分が「専有部分」か「共有部分」かのどちらかになります。
民泊で使用した場合、特に共有部分の使用でのトラブルが多く聞かれます。
専有部分とは
後述します「区分所有法」というマンションに関する法律の第2条3項で「専有部分とは区分所有の目的たる建物の部分」と定義されています。
この建物の部分というのは1条で定義されている「1棟の建物のうち、構造上区分され独立して住居・店舗・事務所又は倉庫その他の建物としての用途に供することができる数個の建物の部分」のことを指しています。
ちょっと分かり難いですよね。
「構造上区分された部分」というのは、壁や床、天井に囲まれた空間のことです。
つまり「部屋」のことを指しているのです。
「マンション標準管理規約では専有部分は以下のように定義されています。
(専有部分の範囲)
第7条 対象物件のうち区分所有権の対象となる専有部分は、住戸番号を付した住戸とする。
2 前項の専有部分を他から区分する構造物の帰属については、次のとおりとする。
一 天井、床及び壁は、躯体部分を除く部分を専有部分とする。
二 玄関扉は、錠及び内部塗装部分を専有部分とする。
三 窓枠及び窓ガラスは、専有部分に含まれないものとする。
3 第1項又は前項の専有部分の専用に供される設備のうち共用部分内にある部分以外のものは、専有部分とする。
壁・床・天井などのコンクリートの表面から内側の空間が専有部分であって、コンクリート部分そのものは専有部分にはならないとされています。
専有部分ではない部分は、全て、後述します「共用部分」になります。
共用部分とは
専有部分以外は全て共用部分になりますが、この共用部分には法定共用部分と規約共用部分があります。
規約共用部分とは
本来は専有部分とすることが出来る部分であっても、管理規約によって共用部分とすることのできる部分を「規約共用部分」といいます。
例えば、「101号室を集会室にする」「102号室を管理事務室とする」「103号室を倉庫として利用する」などが規約共用部分になります。
規約共用部分は登記しないと、それが共用部分だと主張することができません。
法定共用部分とは
法定共用部分とは「区分所有法」で共有と定められている部分で、法定共用部分は専有部分に変更する事は出来ません。
「区分所有法」では共用部分(法定共用部分)を以下のように定義しています。
(共用部分)
第四条 数個の専有部分に通ずる廊下又は階段室その他構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分は、区分所有権の目的とならないものとする。
2 第一条に規定する建物の部分及び附属の建物は、規約により共用部分とすることができる。この場合には、その旨の登記をしなければ、これをもつて第三者に対抗することができない。
エントランス、廊下、階段、エレベーター、屋上、ゲストルームなどが法定共用部分になります。
民泊利用に関する記述
マンション標準管理規約には、「専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。」という記述があります。
これは、「住む」という用途以外、例えば会社の事務所として使ったり、ホテルのように営業用として貸し出したりすることは出来ないという意味です。
この「住宅」に民泊が含まれるのか含まれないのかで、国家戦略特区ワーキンググループの有識者の委員と国土交通省で意見が分かれました。
国家戦略特区の民泊に関する見解
2015年12月22日(火)11:06~11:19の国土交通省会見室での石井啓一国土交通省大臣の会見で以下のような質疑応答がありました。
(問)マンションの管理規約と民泊の関係については、あくまでも考え方としては、特区であろうが法整備がなされようが、マンションを使った民泊については、管理規約の改正が必要だというお考えでよろしいでしょうか。
(答)国土交通省としては、マンション標準管理規約では、「専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。」とされておりますけども、こういった規約のあるマンションで、特区民泊を実施する場合には、管理規約の改正が必要になると考えております。
一方、先ほど申し上げた国家戦略特区ワーキンググループの有識者の委員からは、「むしろ、特区民泊は標準管理規約上の住宅に含まれるという見解を積極的に打ち出すような通知を発出すべき」という異論が表明されたため、更に説明が必要であると判断して、当面、事務連絡を出すことをやめるということにしたものであり、今後、私どもの考え方を御理解していただけるよう、引き続き説明に努めてまいりたいと思っています。
つまり、国としては「マンション標準管理規約では民泊利用を禁止しているので、標準管理規約を採用しているマンションで民泊利用をする場合は、管理規約の変更が必要」という見解です。
大阪地裁のマンション「民泊」差し止め判断
2016年1月27日に大阪地裁が、マンションの管理組合が申立をした民泊の仮処分に対して、民泊の差し止めを命じる判決が出されました。
このマンションの管理規約には「専ら住居として利用する」との条項があったとされています。
マンション標準管理規約に書かれている「専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。」という文言が民泊を禁止していると司法が判断したのであれば、今後のマンション民泊に対して非常に大きな影響がある判決だと言えます。
その他、仮処分の審理で、管理組合側の主張としては以下のような点が挙げられました。
- 玄関はオートロックなのに、宿泊者が自由に出入りしているという安全上の問題。
- 宿泊者が廊下やエレベーターで大声を出して騒ぐなどのトラブル。
- 民泊は区分所有者全体の共同の利益に反する。
民泊を禁止する司法判断が出たという意味では、非常に大きな意味がある判決だと思います。
管理規約の変更方法
管理規約はそれぞれのマンションが自分達のマンションのルールとして作成するのですが、どんなルールを作っても良いというわけではありません。
マンションに関しては、区分所有法という法律があり、この法律に反したようなことは規定することは出来ません。
ちなみに、一般的に建物を指す「マンション」という言葉は正式な名称ではなく、「区分所有建物」といいます。
区分所有法の中では「マンション」という言葉は一切使用されず、「区分所有物」と書かれていますのでご注意ください。
区分所有法とは
マンションという言葉には、「分譲マンション」と「賃貸マンション」の2種類がありますが、分譲マンションに関しては「区分所有法(正式名称:建物の区分所有等に関する法律)」という法律で、各部分ごとの所有関係、建物・敷地等の共同管理について定められています。
区分所有建物(マンション)の管理や所有のルールを国が定めた法律ですから、この区分所有法(マンション法と呼ばれることもあります)に反した内容の管理規約を作成することはできません。(※賃貸マンションに関する建物利用関係等のルールは、借地借家法で定められています。)
それでは、「規約の変更」は区分所有法でどのように規定されているか見てみましょう。
強行法規とは
区分所有法の中には「強行法規」といって、たとえ当事者みんなが合意したとしても、勝手に変更してはいけない項目があります。
「規約の設定、変更及び廃止(法31条1項)」も強行法規の一つです。
ですから、管理規約を変更する場合、区分所有法で決められた方法でしか変更は出来ません。
区分所有法では、規約の設定、変更及び廃止に関しては、区分所有法31条で「区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議によってする」と定められています。
この「4分の3」という数字は法律で定められて変更が出来ませんので、「5分の4」にしたり、「2分の1」にしたりすることは出来ません。
無許可民泊に対する行政の指導
民泊(簡易宿所)の許可を取らずに営業をしている場合、旅館業法違反になり行政から指導が入る場合があります。
実際に行政の指導に従わずに逮捕されたケースや指導後に営業を取りやめたケースもあります。
『無許可民泊営業者に対する指導事例』で詳しくご説明していますので、ご参照下さい。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
マンションで民泊を行う場合、国家戦略特区で旅館業法適用外であっても、「マンション管理規約で民泊利用を禁止されていないこと」が必要だということをご理解頂けたのではないかと思います。
民泊用に購入したのに「後で調べたら管理規約で禁止されていた」又は「購入時には禁止されていなかったのに、4分の3以上の多数で民泊禁止が決議されてしまった」という可能性もありますので、十分注意が必要です。
また、マンション標準管理規約の改定などの内容もチェックして、購入予定のマンションの管理規約をよく読んでおくことが重要だということもお判り頂けたかと思います。
民泊利用をお考えの場合は、必ず管理組合にご相談されることをお勧めします。