民泊のトラブルとリスク

最近インターネットでの個人宅紹介仲介ビジネスを利用する観光客が増えている中で、旅館・ホテルのような宿泊施設を提供するために決められている「旅館業法」の適用対象になるのかが問題になっています。

「泊まるところが足りないんだから、細かい事言わずに解放すればいいじゃん」「既得権益を守るために、旅館業法とか何とか言ってるんじゃないの」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、宿泊施設の提供者に対して法規制によってルールを設定することは非常に重要なことなのです。

今回はルール無しで民泊が無秩序に増えた場合のトラブルとリスクを考えてみたいと思います。

※住宅宿泊事業法(2018年6月15日施行)により、都道府県に住宅宿泊事業の届出をすれば民泊営業することができるようになりました。

衛生上のトラブル

感染症のトラブル

「感染症」とは、人・食べ物・昆虫などを介して、ウイルス・細菌、寄生虫やクジラミアなどが体内に侵入し、発熱や下痢といったさまざまな症状がでることをいいます。

現時点の個人宅貸し出しタイプの民泊には、ホテルのフロント業務のようなものは義務付けられていませんので、チェックインした時に書く宿泊者名簿のような本人確認をしていないケースもあります。(サイト上でパスポート等の身分確認済という場合もあります)

この「個人確認」は、感染症発生時の感染経路特定や被害拡大防止に極めて重要な役割を果たします。

厚生労働省の定めた「旅館業における衛生等管理要領」では、宿泊者名簿は3年間の保存が義務つけられています。

このように「面倒だなあ」と思うような作業でも、みんなが安全で快適に利用出来るようにするためには必要な作業なのです。

設備の衛生トラブル

衛生上のトラブル

旅館業法の中身をよく知っているという方は少ないと思いますが、実は、みなさんが安心して宿泊出来るように細かい規定がされているのです。

法律で細かく規定することで、業者にも設備をきちんと管理するよう義務と負わせているのです。

例えば、以下のような事項を「旅館業における衛生等管理要領」の中に、特に留意すべき事項として記載されています。

 近年の入浴施設では、湯水の節約を行うため、ろ過器を中心とする設備、湯水を再利用 するため一時的に貯留する槽(タンク)及びそれらの設備をつなぐ配管を伴い、複雑な循環系を構成することが多くなっている。

また、温泉水を利用する設備、湯を豊富にみせるための演出や露天風呂、ジャグジーや打たせ湯の設置など様々な工夫により、入浴者を楽しませる設備が付帯されるようになってきた。

これまでのレジオネラ症の発生事例を踏まえると、これら設備の衛生管理、構造設備上の措置を十分行う必要がある。

浴槽水を汚染する微生物は、入浴者の体表に付着したり、土ぼこり及び露天風呂等から侵入する。

温泉水等を利用する施設で一時的に湯を貯留する設備を設けると、それが微生物に汚染されやすい。

これらの設備は、土ぼこりが入りにくくし、清掃や消毒を十分行うことが必要である。

また、浴槽水は、入浴者から各種の有機質が常に補給され、これらを栄養源として、ろ過器、浴槽や配管の内壁等に定着して微生物が定着・増殖する。

しかも、その菌体表面に生産された生物膜によって、外界からの不利な条件(塩素剤等の殺菌剤)から保護されているため、浴槽水を消毒するだけではレジオネラ属菌等の微生物の繁殖は防げない。

そのため、浴槽水の消毒のみならず常にその支持体となっている生物膜の発生を防止し、生物膜の形成を認めたならば直ちにそれを除去することが必要である。
ジャグジーや打たせ湯等は、エアロゾルを発生させ、レジオネラ属菌感染の原因ともなりやすいので、連日使用している浴槽水でジャグジー等の使用を控えたり、打たせ湯等で再利用された浴槽水の使用を控える等、汚染された湯水によるレジオネラ属菌の感染の機会を減らすことが必要である。

こういった規制を全く受けずに宿泊施設として提供されてしまったら、どうなるのでしょうか?

なんでもかんでも厳しく規制する必要はないと思いますが、絶対に必要な規制はきちんと適用させるようなルール作りが必要だと思います。

地域住民とのトラブル

地域住民とのトラブル

自宅やマンションの空き部屋を貸す「民泊」は、ほとんどの場合がマンションですので、すぐ横の部屋には普通の家庭が生活しているというケースは珍しくありません。

旅行先の宿泊施設として泊まる外国人と、日常生活を過ごしている一般家庭が混在するわけですから、当然さまざまな問題がおきます。

特に日本では地域によって「ゴミの分別」が厳しく決められています。

しかし、そんなルールの説明を受けていないケースもありますし、外国人、特に旅行者にとっては、説明を受けていても守らないケースもあり、トラブルが頻発しています。

それ以外でも以下のようなトラブルがあります。

  • 廊下やロビーでの大きな話し声。
  • タバコのポイ捨て。
  • 間違えてインターホンを鳴らされる。
  • オートロックの開放。
  • 部屋でパーティーを開催しての騒音。
  • 外国人同士の喧嘩。

これ以外にも、挙げればきりが無い程、住民とのトラブルがあります。

横の部屋が民泊に利用され始めて、あまりの連日の騒音で引っ越しをしたという方もいらっしゃいます。

こういったトラブルが増えると「民泊=悪」というイメージにつながってしまいますので、住民と観光客双方が納得する基準づくりが必要になります。

治安上のリスク

違法薬物・売春などに利用されるリスク

薬物利用リスク

実際に外国では、自分の部屋を貸して、売春宿として利用されていたり、麻薬などの薬物使用、傷害事件などが起こっている例があります。

インターネット上だけでのやりとりで、1回も顔を合わせることも無く、しかも個人確認をしていない場合であれば、このような犯罪が起こっても、すぐに追跡をすることが出来ません。

こういった犯罪の温床になるリスクもありますので、なんらかのルール作りは必要なのだと思います。

テロなどに利用されるリスク

東京オリンピックに向けてテロリスト対策が叫ばれていますが、「民泊」はテロリストの格好の潜伏先になる可能性があります。

登録や規制なく無秩序に個人宅の貸し出しが展開されれば、どこにテロリストが隠れているかを探すことは実質不可能と言って良いでしょう。

こういったリスクに対する対策が取られなければ、「民泊」という新しい大きなビジネスにとってもマイナスになるのではないでしょうか。

責任の所在が不明瞭なリスク

衛生上のトラブルでご紹介したように、もし民泊で何らかの重大な病気に感染した場合、誰の責任になるのでしょうか?

旅館業法などの規制が貸主に対してなければ、旅館業法で決められている設備が無くても、一方的に貸主の責任にすることは出来ないと思います。

貸した部屋で売春や障害事件が合った場合、貸主は何の責任も無いのでしょうか?

こういったトラブルがあった場合の責任の所在をはっきりさせるためにも、法整備は必要なのです。

まとめ

まとめ

如何でしたでしょうか。

「旅館業法とか面倒な事は言わずに、早く民泊を解禁したらいいんじゃない。」と思われていた方も、いろいろな問題があるとご理解頂けたのではないでしょうか。

「問題があるんだったら、民泊なんて認めなければいい」というご意見もあるかもしれません。

しかし、2015年11月時点のデータで約1800万人となった外国人観光客の宿泊施設が足りないという、大きな問題があります。

この問題を解決するには、空き家や個人宅を利用した「民泊」が必要となるのは間違いありません。

政府も自治体と一緒に急ピッチで検討会を開き、2016年には民泊に関しての何らかの見解を出すとしています。

※住宅宿泊事業法(2018年6月15日施行)により、都道府県に住宅宿泊事業の届出をすれば民泊営業することができるようになりました。

現在は東京大田区と大阪区が「民泊条例」制定に向けて動いています。(民泊条例に関しては「民泊条例とは」をご参照下さい。)

民泊ポータルサイト「minpaku」でも各自治体の情報を確認できます。

地域住民、借りる側、貸す側、出来る限りみんなが安全で安心して利用できるような基準作りが進んで、新しい「民泊」というビジネスが健全に成長していくことが日本経済にとっても大きな役目を果たすのではないかと思います。

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