このサイトの運営を始めてから、外国にお住まいの外国人の方から「今後、日本に住んで民泊のビジネスを始めたいと考えているのですが、どうしたらいいでしょうか。」というご質問をよく頂くようになりました。
単に投資目的ではなく、ご自身やご家族も日本に住んでビジネスを始める場合、民泊の準備以外にも「在留資格」という「日本に住むための資格」の取得が必要になります。
外国人の方が日本に住居を移して民泊ビジネスを始める場合の注意点をわかりやすくご説明したいと思います。
法令を遵守すること
何よりも重要なことは、民泊ビジネスは勿論ですが、普段の生活でも法令を遵守することです。
「そんなこと、当たり前だ!」と思われるかもしれませんが、ご自身では違法だと気が付かずに違法行為をしてしまうケースもあります。
後述しますが、犯罪を犯さないというだけではなく、きちんと納税をする、厚生年金(個人事業主の場合は国民年金)を支払うといった事は最低限必要です。
私の事務所では在留許可申請のご依頼もよく頂くのですが、依頼者の方から「日本にいる同じ国の知り合いから『将来年金をもらわない外国人は年金保険料を払わなくても良い』と聞いた」といった、明らかに間違った情報を信じている方もいらっしゃいます。
こういった、知り合いから聞いた情報を基に、違法行為ではないと思っていたことが実は違法行為だったということは、よくあります。
当事務所では、入国管理局への在留資格申請取次や会社運営のサポートもおこなっていますが、「税金は払いたくない」や「年金はもったいないから払いたくない」という方へのサポートは出来ませんので、お断りしています。
「きちんと法令を守って日本のルールの中でビジネスをしたい」と考えられている方には全力でサポートさせて頂いています。
まずは、何があっても「法令遵守」という考え方が非常に重要だと思います。
日本の在留資格は取りやすい!?
当事務所に在留許可申請の依頼を頂いた外国人の方から、「日本は人口が減っているから、海外の人を、どんどん呼びたいんでしょ」というような主旨のご質問を、何度かいただいたことがあります。
確かに日本は人口が減って困っているのですが、それは高齢化で「納税する人が減って、社会保障費が膨らんでいる」から困っているのです。
「納税もせず、社会保険料も払わない人」が増えて欲しいという考えは、日本政府には無いと思います。
実際、高い技能を持った方や日本でビジネスをして税金を納めて頂けると思われる方への在留資格は条件が緩和される方向ですが、不法滞在や偽装結婚にたいする調査や在留資格の審査は年々厳しくなっています。
海外から人を呼んで人口を増やしたいというだけであれば、入国審査や在留資格の申請審査を厳しくすることはありません。
また、経営管理などの在留資格を得た場合でも、在留資格の更新手続の際に納税をしていなかったり、社会保険を納めていないことがわかると更新が出来ない場合もあります。
「日本は人口が減っているから、海外の人を、どんどん呼びたい」のではなく、「日本は人口が減っているから、日本にきちんと納税をして社会保険料を納めてくれる海外の人を、どんどん呼びたい」ということなのです。
ですから、後述します事業計画や給与額の設定などは非常に重要になります。
「日本は外国人を受け入れたいんだから、形だけでも事業計画を書いて申請すればいいや」と軽く考えていると不許可になる可能性が高いと言ってもいいと思います。
一度不許可になってからの再申請は、さらに審査が厳しくなりますので、十分気をつけて下さい。
在留資格とは
在留資格とは「日本に在留する資格」のことを指します。
ビザ(査証)と在留資格を同じ意味で使われる場合もありますが、ビザと在留資格は別物です。
日本に住んで会社を設立して民泊ビジネスを始める場合、「経営・管理」という資格の取得が必要になります。
それでは、「経営・管理」とはどういった在留資格なのかを見てみましょう。
「経営・管理」とは
「経営・管理」という在留資格は、通称で「経営管理ビザ」とも呼ばれています。
「経営・管理」というのは、字のごとく「経営」と「管理」のどちらかをおこなう人に対して付与される資格です。
経営というのは会社の経営者です。
民泊ビジネスを行う場合、ほとんどが、ご自身の資金で会社を設立して、その会社で物件を購入してビジネスを行うというパターンだと思います。
その場合は「経営者」という立場になり、経営管理という在留資格が必要になります。
会社設立時の注意点
会社を設立する前に、「経営・管理」の在留資格が取得するための準備をしておく必要があります。
この準備をせずに会社を設立してしまうと、在留資格の申請をしても不許可になってしまう場合があります。
最悪の場合、一旦会社を閉鎖してから、新しく会社を設立する必要があります。
そうなると、数十万円を捨ててしまうことにもなりますので、在留資格申請の前の会社設立の準備は慎重におこなって下さい。
株式会社と合同会社
「株式会社と合同会社のどちらがいいですか?」というご質問もよく頂きます。
合同会社は知名度があまり高くないので、名刺を渡した時に「え?合同会社って何ですか?」と聞かれるようなことがあります。
また、合同会社には「代表取締役」という役職が存在しません。
合同会社の場合の社長の役職名は「代表社員」です。
この役職名も知名度が低いので「代表社員」と名刺に書いていても「この人は社長じゃないんだ」と思われる可能性もあります。
合同会社は設立費用が安いことや、定款の内容の自由度が高いといったメリットもあります。
合同会社にされる場合は、定款の決め方が非常に重要になりますので、専門家にご相談されるのが良いと思います。
株式会社と合同会社の比較は『合同会社のメリットとデメリット』でもご説明しておりますので、ご参照下さい。
事業計画の作成
「経営・管理」の在留資格では「事業計画」が最も重要だと言ってもいいと思います。
事業計画は出来るだけ具体的な内容をかかなければいけません。
「不動産を購入して民泊を営業する予定」のような大雑把な計画では不許可になる可能性があります。
例えば、以下のような形で具体的に計画を建てる必要があります。
- 神戸市○○町の物件を1泊いくらくらいで、月何日間貸し出す(稼働日数)
- 掃除サービスは●●社を利用して1回5,000円を予定する
- 会社の事務所の光熱費
- 苦情窓口やカギ渡しサービス会社への支払は1物件月5万円を予定する 等々
この事業計画は、実際に実現出来るものでなければいけません。
在留資格は毎年更新手続があります。
もし3年経っても計画とは全く異なって利益が上がらない場合は更新が出来なくなる可能性もあります。
資本金の設定
資本金は最低500万円必要です。
もし2人で会社を設立して、2人とも在留資格を取得したい場合は各人500万円以上、つまり1000万円以上の出資が必要です。
2人で共同出資の場合は、2人の役割分担がどのようになっているかも重要です。
例えば「兄弟一緒に日本に住みたい」という理由だけでは許可はおりない可能性が高いと思ってよいでしょう。
ちなみに、資本金額ですが当事務所では出来れば600万円以上の出資をお勧めしています。
資本金の出所
非常に重要なのが「資本金をどうやって稼いだのか」というお金の出所です。
何か違法な行為をして得たお金ではないということを証明する必要があるのです。
例えば、サラリーマンとして毎月10万円づつ貯めていたということであれば、給与所得証明書を会社から出してもらうことも有効です。
個人事業主であれば、納税証明書を提出することで、所得を証明出来ます。
月給20万円の人が2年で500万円貯めたとなると、ちょっと怪しいなとなりますが、月給100万円の人が2年で500万円貯めたと言ったら納得するでしょう。
その他、借金してお金を作った場合などは、特に注意が必要です。
事業所と住居を別にする
原則として事業所と住居は別々にされることをお勧めしています。
どうしても住居と同じ敷地内で事業所を開きたい場合は、事業所が一区画を占めて、独立していることが必要になります。
つまり、完全に事業所部分は仕切りなどで区別されていることが必要です。
住居以外に別の会社の敷地の一部を借りる場合も、独立して仕切られていることが必要になります。
事業所の表札は法人名にすることや、郵便受けも法人名で設置が必要です。
貸主が事業用に使用することを認めている必要があったり、公共料金の共有部分をどのように分けるか明確に取り決めている必要もあります。
このように、住居の一部を事業所として使用するのは、在留資格を取得する際に多くの取り決めがあるのです。
住居と事務所を別々に借りるとコストがかかるので、一緒にしたいというお気持ちもわかります。
「どうせ、一緒にしても判らないだろう」と軽く考えられる方もいらっしゃいますが、入管は事務所へ実際に足を運んで調べる場合もあります。
更新の際に入管が事務所を確認にいったところ、住居と一緒になっていて更新が不許可になった例もあります。
在留資格を取得することを第一に考えるのであれば、住居と事務所は別々にされることをお勧めします。
連帯保証人がいなくてもよい物件を探す
会社設立のための事務所を探す際に最も苦労するのが「連帯保証人」です。
最近は外国人専門の家賃保証会社もありますので、家賃保証の保証人はわりと簡単にみつかるのですが、それとは別に大家さんから「日本人の連帯保証人」を求められるケースがよくあります。
地域にもよりますが、京都などはそういった物件が特に多いように感じます。
といっても、連帯保証になってくれる日本人なんて、そう簡単に見つけることは出来ませんので、「連帯保証人無しで外国人が事務所として借りることが出来る物件」をいろいろな不動産会社を巡って探す必要があります。
希望通りの条件の物件を見つけるのは難しいかもしれませんが、条件を妥協することで物件が見つかることもあります。
会社設立後の注意点
ここまで、資本金や設立する会社の種類など、会社を作る前の注意点を見てきましたが、今度は会社を設立した後の注意点を見てみましょう。
給料はどれくらいにするの?
原則として代表取締役の給与は年収で300万円以上です。
当事務所では、月収(役員報酬)30万円以上をお勧めしています。
国民年金と厚生年金の違いは?
国民年金は基礎年金と呼ばれ、日本に住所がある20歳~60歳の人は外国人も含めて全員加入しなければいけません。
厚生年金は、サラリーマンなどが加入しているもので、基礎年金(国民年金)に上乗せする形で存在する年金制度です。
ですから厚生年金には基礎年金(国民年金)部分も含まれているのです。
細かい内容はここで書きますと長くなりますので省略しますが、外国人の方がよく勘違いされる点をご紹介します。
将来日本で年金をもらうつもりはないから払わない
年金制度には、「日本国籍を有しない方が、日本を出国して、日本に住所がなくなった日から2年以内に脱退一時金を請求することができる」というルールがあります。
しかし、年金保険料を払わなくて良いということではありません。
国籍に関係なく、日本に住所がある人20歳から60歳の人は年金保険料の納付義務があります。
勝手に払わないというのは違法行為なのです。
厚生年金は高いから国民年金を払う
株式会社や合同会社のような法人の場合、例え役員一人の会社であっても厚生年金に加入する義務があります。
これも勝手に自分で国民年金にすると決めることは出来ません。
在留資格の更新時には年金の支払書の提出を求められる場合もありますので、会社を設立した場合は、必ず厚生年金に加入しておきましょう。
どんな税金を支払うの?
個人の給与にかかる「所得税」や「住民税」以外に、法人を運営するにあたって、さまざまな税金がかかります。
「こんなにたくさん!?払いたくない!」というお気持ちはわかりますが、払うべき税金を払わなければ「脱税」といって、違法行為になります。
日本でビジネスをする為にも、どんな税金があるのかを知っておきましょう。
※こちらで紹介します税金は主なものだけですので、実際にはもっとたくさんの種類の税金があります。詳しくは税理士にご相談下さい。
法人所得税
法人の所得に対し、課税される税金です。
資本金1億円以下の会社の場合、会社の利益800万円以下までが15%、800万円超には23.2%課税されます。
例えば利益が500万円だった場合、75万円の法人所得税がかかります。
利益が無い場合は、法人所得税はかかりません。
法人住民税
地方自治体の住民サービスに対して住民が負担するための税金です。
法人所得税とは違って、利益が出なくても必ず課税される「均等割」と呼ばれる税金額があります。
それに加えて、利益が出る場合、納税する法人税額に一定の割合を掛けて課税される「法人税割」があります。
法人住民税には、法人県民税(都道府県)と法人市民税(市町村)の2種類があり、どちらも「均等割」と「法人税割」があります。
所得税・住民税
所得税は、個人の給与(所得)に対して課せられる税金です。
会社が赤字で法人税は払わなくても、経営管理の在留資格の場合は年収300万円以上必要ですので、個人の所得税は納税することになります。
住民税も、所得税と同じく個人の所得に対して課せられる税金です。
法人住民税と同じように都道府県住民税と市町村住民税があり、それぞれ所得割額と均等割額があります。
『所得税・住民税とは』のページで詳しくご説明しておりますので、ご参照下さい。
固定資産税
固定資産税とは、固定資産の所有者に課される市町村税です。
民泊ビジネスを始める場合、物件を購入して宿泊施設として貸し出すという方も多いと思います。
その場合、固定資産税は非常に重要になりますので、必ず覚えておいて下さい。
『固定資産税とは』のページで詳しくご説明しておりますので、ご参照下さい。
不動産の譲渡所得税
個人で民泊物件を売買して利益をあげることもあると思います。
その場合、給与の所得税とは別に不動産の譲渡所得税という税が課税されますので、注意が必要です。
『不動産の譲渡所得税』のページで詳しくご説明しておりますので、ご参照下さい。
その他、不動産に関する税金は『民泊物件購入時に知っておきたい不動産用語』にまとめていますので併せてご参照下さい。
毎月の記帳って、どうするの?
日本の法人は年に1回、税務署へ決算申告が義務付けられています。
決算申告というのは、1年間にどれくらいの売上があって、どれくらいの経費をどのようにつかって、どれくらいの利益が出たかを報告するものです。
決算申告をする為には、物を買ったり売ったりした毎日のお金の出入りを全て一つずつ記録しておかなければいけません。
このお金の出入りを一つずつ記録する作業を「記帳」といいます。
当事務所でも、お客様に代わって記帳をする「記帳代行サポート(月額15,000円~+税)」と提携税理士による「決算申告サポート」を行っております。
詳しくは『決算・申告サポート』をご参照下さい。(※税務に関する費用は税理士法に基づいて直接にお支払頂きます)
会社が赤字でも在留資格は更新できる?
1期目に赤字の場合で更新が不許可になるケースはほとんどありませんが、2期連続で赤字の場合は注意が必要です。
何故、赤字になったのかの理由が必要になります。
さらに3期連続赤字となると更新が不許可となる可能性が高くなります。
役員が1人であっても最低でも300万円の給与が必要ですし、事務所の家賃や光熱費などの費用も毎月かかります。
こういった費用も考えた上で事業計画を建て、それに沿って事業を進めていくことが重要になります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
思ったよりも税金や社会保険料が高いなあと思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
確かに税金や社会保険料は高く感じるかもしれませんが、これは日本に住むためのルールです。
みんなこのルールに従って、ビジネスをしてお金を稼いでいるのです。
在留資格を取られた後に、永住ビザや最終的に帰化までお考えの場合は、最初から法令を守っておかなければ、永住や帰化の許可が出ないケースもあります。
永住ビザは提出書類は少ないのですが、審査は相当厳しくされます。
永住ビザの審査で、それまでは見落とされていた違法行為が見つかって、それまで持っていた在留資格まで剥奪されてしまうこともあります。
ですから、税金や社会保険は特に気をつけて納めておく必要があると思います。
当事務所としましても、日本の法令を遵守して、健全なビジネスをされる外国人の方には、全力で応援したいと思っています。