私は不動産投資の勉強を始めた時に、一番最初に気になったのが所得税と住民税でした。
しかし、まわりに聞いてみると、あまり気にされている方は多くないようだったので、私としては非常に不思議に思いました。
不動産を譲渡した場合の不動産譲渡所得税や、不動産を取得した場合の不動産取得税、ランニングコストとしての固定資産税はきっちり把握されているのですが、所得税や住民税に関して、「投資を始めたことでどれだけ増額するか」を把握されている方は意外に少ないように感じます。
おそらく、収入によって大きく変わるので、「一般的には」という数字が出せないからなのでしょう。
しかし、投資前と投資後でどれくらい所得税と住民税が増えたかまで考慮して利回り計算をしなければ、本当の意味での利回りは判らないのではないかと思います。
このページでは「投資による家賃収入によって所得が増えた場合」の所得税と住民税がどのようになるのかを、判りやすく見ていきたいと思います。
(不動産の譲渡所得税は『不動産の譲渡所得税』で説明しておりますので、ご参照下さい。)
所得税・住民税を理解する為に知っておくべき用語
所得税と住民税がどんなものなのかを見る前に知っておくべき言葉がいくつかありますので、まずはそれらを見ていきたいと思います。
総合課税って、何?
総合課税とは、いくつかの所得があった場合、すべての所得を合算して税金を計算する制度です。
所得はどのような手段で得た所得かによって10種類に分けられているのですが、その各所得を合算した金額に課税する方式が「総合課税」と呼ばれるものです。
総合課税の対象となる所得には以下のようなものがあります。
- 不動産所得
- 給与所得
- 譲渡所得(土地および株式等の譲渡等による譲渡所得を除く)
- 利子所得
- 配当所得
- 事業所得
- 一時所得
- 雑所得
個人で不動産投資をされる方に、主に関係する所得は「不動産所得」と「給与所得」になります。
※不動産を譲渡した場合の譲渡所得は、他の所得と分離して所得税と住民税が課税されます。
累進課税(るいしんかぜい)って、何?
累進課税とは、課税標準(所得税の場合は所得額のように税金を算出するための課税の対象)が増えるほど、より高い税率を課すような課税方式のことをいいます。
つまり、高所得者の所得には高い税率をかけて、低所得者の所得には低い税率をかけて税金を計算することです。高所得者は、そもそも大きい金額の所得に対して、高い税率をかけられますから、税金の額としては、かなり大きい額になりますよね。
所得が高い方も大変ですよね・・・。
所得控除って、何?
所得控除とは、所得税を課税する際の計算の基となる「所得」から、決められた条件に当てはまっている場合に、一定の金額を控除(差し引く)ことを言います。
不動産投資の際に関係のありそうな控除として、主には下記のようなものがあります。
- 基礎控除
- 配偶者控除
- 扶養控除
- 社会保険料控除
不動産所得って、会社の給料とどう違うの?
不動産から得る収入から必要経費を差し引いたものが「不動産所得」になります。
サラリーマンの給与にも給与所得控除や特定支出控除のように給与(収入)から一定額を控除する仕組がありますが、不動産所得の場合、収入から差し引く「経費」の額が条件によって大きく異なり、課税対象となる所得金額が大きく変わってきますので、「経費」がどれくらいになるのかが非常に重要になります。
●不動産所得=収入-経費
収入、経費といっても、何が収入で何が経費か判り難いですよね。
以下で、「収入」「経費」がどういったものかを見ていきたいと思います。
収入って、どんなものがあるの?
細かくものまで見るといろいろありますが、大きくは以下のようなものが収入となります。
- 家賃・地代
- 権利金・礼金・敷金・保証金(返還しないもの)・更新料など
- 共用部分の水道光熱費など
経費って、どんなものがあるの?
経費もいろいろありますが、ここでは主なものを見てみたいと思います。
これらは収入を生む不動産物件に関わるもののみが費用として認められますので、全然関係のない目的での借入金の金利や自宅の光熱費などは、当然不動産所得の経費としては認められません。
経費に出来るものはこれ以外にもありますので、詳しくは税理士さんにご相談下さい。
- 減価償却費
- 借入金金利
- 固定資産税・都市計画税・事業税等の税金・収入印紙代
(※当該不動産所得に課せられる所得税・住民税は当該不動産の経費にはなりません!) - 保険料(出来ないものもありますので、詳細は税理士さんにご確認下さい)
- 管理会社への手数料
- 修繕費
- マンションなどの管理費
- 税理士や司法書士への報酬
- 共用部分の水道光熱費
- その他雑費
不動産所得は「収入-経費」ですから、経費が大きくなるほど、不動産所得は小さくなるということになります。
つまり「減価償却費」や「借入金金利」が高い程、不動産所得は小さくなるのです。
経費に認められないものって、どんなものがあるの?
では、経費に認められないもので、「え~っ!」と思うものはどんなものがあるのでしょうか。
「借入金の元本返済部分」
そうなんです。借入金の元本返済部分は経費に入らないのです。
どうゆう事かと言いますと、1億円借りて、毎年1000万円返済をしている方で、毎年の家賃収入が1200万円の方を例にお話してみたいと思います。
(※ここでは、判りやすく説明するために、家賃以外の収入及び減価償却や金利などの費用や所得控除などは一切無いと仮定します)
この方、1200万円収入があっても借入金の返済で1000万円支払っていますので、手元に200万円しかありませんよね。
「じゃあ、残った200万円に所得税がかかるのか」と思ったら、違うのです。この返済金1000万円は経費にならないので、所得は1200万円となります。
ですから、1200万円に対して課税されるのです!
会計を勉強されている方にとっては当たり前の話なのですが、「えっ?そうなの(゚д゚)!」って思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
一番最初に書いたように所得税に関しては、あまり気にされていない方も多いように思いますので、この点は注意が必要だと思います。
絶対に物件購入前に想定される所得税を計算されることをお勧めします。
所得税って、どんな税金?
ここから、やっと「所得税」とは、どんな税金なのかを見ていきたいと思います。
所得税とは、個人の所得に対して課される税金です。先程『不動産所得って、会社の給料とどう違うの?』のところで見ましたように、収入から費用を引いたものが「所得」になります。収入全部が所得になるのではないので、この点を再度覚えておいて下さい。
所得は、給与所得、事業所得、不動産所得、配当所得、一時所得、雑所得、退職所得、利子所得、譲渡所得、山林所得の10の区分に分けられますが、『総合課税って、何?』で見たようにこの内の8つの所得を合算した金額を基に計算して所得税が課税されます。
※不動産を譲渡した場合の譲渡所得は、他の所得と分離して所得税と住民税が課税されます。
所得税って、どれくらい払うの?
所得税ってどれくらい払うのか、気になりますよね。
所得税は累進課税なので、所得が大きいほど税率も高くなります。(以下は平成27年の所得税率表です。)
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え?330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え?695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え?900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え?1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え4.000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
控除額というのは、計算した税額から差し引く金額で、所得金額×税率-控除額が納税する所得税額になります。
例えば、「課税される所得金額」が700万円の場合には、
700万円×0.23-63万6千円=97万4千円
となります。
※平成25年から令和19年までの各年分の確定申告においては、所得税と復興特別所得税(原則としてその年分の基準所得税額の2.1%)を併せて申告・納付することとなります。
結構厳しいですよね(汗)
サラリーマンの方の副業で不動産投資をする場合、例えば給与所得と不動産所得の合計が2000万円になったとすると、所得税額は約520万円!
これを計算に入れていないと、とんでもないことになりますよね。
不動産投資をする場合は、費用となる金利額や減価償却費がどれくらいかと想定される所得税額を、しっかり確認しておいて下さい。
住民税って、どんな税金?
住民税とは、一般的に、市町村民税と都道府県民税の総称を指します。法人の住民税(法人住民税)もありますが、ここでは個人住民税を見ていくことにします。
住民税は前年の所得金額に応じて課税される「所得割」と、所得金額に関係無く定額で課税される「均等割」を合算した金額になります。(「均等割」部分であっても、前年の所得が一定金額以下場合、非課税となる場合もあります。)
所得割って、どうやって計算するの?
住民税の所得割は
市町村民税6%+都道府県民税4%=合計10%
となります。
つまり、所得の10%が所得割部分の金額になります。判りやすいですね。
一つ気を付けなければいけないのは、住民税の所得割の計算は前年度の所得に対してかかるという点です。
均等割って、どうやって計算するの?
均等割部分は平成25年までは市民税が3,000円、県民税が1,000円の合計4,000円だったのですが、防災・減災のための事業資金を各地方団体自ら確保するため、平成26年度~令和5年度の10年間、市県民税の均等割が年間でそれぞれ500円、合計で1,000円増額となります。
25年度まで | 26年度 | 27年度 | |
市民税 | 3,000円 | 3,500円 | 4,000円 |
県民税 | 1,000円 | 1,500円 | 2,000円 |
合計 | 4,000円 | 5,000円 | 6,000円 |
所得税と住民税の計算の注意点
税額を計算する場合、基礎控除に加えて社会保険、生命保険、地震保険、配偶者の有無、扶養家族の有無と数によっても控除額が変わってきますので、正確な数字が知りたい場合は税理士さんにご相談されることをお勧めします。
サラリーマンが副業で投資する場合の所得税・住民税の注意点
所得税は、給与所得と不動産所得を合算した金額に課税する「総合課税」であることと、所得が高くなる程税額が上がる「累進課税」である点を十分注意して下さい。
年収500万~700万円くらいのサラリーマンの方の副業として不動産所得が加わった場合、課税される税率が上がり、予期せぬ所得税額になる場合があります。
余談ですが、サラリーマンの副業の場合、社会保険は会社の給与をベースに標準報酬によって決まりますので、副業で収入があっても厚生年金や健康保険といった社会保険料は変わりません。これは助かりますね。(個人事業主の大家さんの場合はもちろん所得に応じて変わります)
まとめ
いかがでしたでしょうか。
不動産投資の場合、固定資産税や不動産取得税などが注目されがちですが、所得税や住民税もランニングコストとして想定しておくことも重要であることをご理解頂けたかと思います。
不動産所得の場合、収入から差し引く費用、特に「減価償却費」と「借入金金利」がどれくらいかによって大きく変わってきますので、その点を注意しながら想定される所得税・住民税を計算してみて下さい。
また、控除の条件などで計算が複雑になりますので、正確に知りたい場合は税理士さんにご相談されるのも良いかと思います。